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吉村萬壱「大穴(ダイアナ)」

出典:『文學界』2013年3月号
評価:★★★☆☆

同じ作家はなるべく取り上げないという自分ルールで書いてきたんですがだいたい今の文芸誌で書いている人をとりあげた感じなので、同じ人でも何回でもとりあげることにします。そして吉村萬壱の小説「大穴(ダイアナ)」。タイトルに括弧つきでカタカナの読み仮名。

吉村萬壱というと汚物や愚鈍な人間、ひっくるめてノーマルから外れた存在を、これでもかこれでもかと、まるで画面全体にピントを合わせたスーパーリアリズムのようなどぎつい(ときに露悪的でさえある)描写でみせてくれる作家という印象です。この作品にも、ゲロや垢や、オツムのたりなそうな女が出てきて、それらのディティールの描写が素晴らしく気持ち悪い(誉め言葉)。

一方、話の筋は、前を歩いていた女が偶然怪我をしてその女を介抱をしてやった男が、後日偶然同じ電車の車両に乗りあわせ、さらに車中で体調を崩した女をまた介抱するふりを装って「お持ち帰り」してしまう、というけっこう偶然にすぎる偶然がかさなるご都合主義な話。なんなんでしょう、この話のつくり方。美男美女が街角で偶然再会して恋愛するというような、通俗ドラマのような筋立てを反転させて、売れない初老作家と頭のたりなそうな不潔な女で描くことで、「やーいやーい」と言いたかったんでしょうか(笑)。シェークスピアだと「きれいはきたない、きたないはきれい」ですが、この作品を読んだあとも、「きたないものはやっぱりきたない」としか思えません(誉め言葉)。

例によって汚物描写は、読み手としては目をそむけたくなりながらも、しかしついつい読まされてしまいます。

 彼女は諦めたように顔を上に向け、頭頂部をゴン、ゴンと窓ガラスにぶつけ始めた。角度のせいで、白目を剝いているように見える。そして突然俯いたかと思うと、猛烈な勢いで上体を前に折り曲げた。押し込んだ詰め物を鼻から引き抜いたような、気持ちのよい音が鳴った。同時に彼女の口から形の定まらない塊が噴出し、それは一瞬空中で静止したかのように見えた。エクトプラズムかと思った。そして夥しい量の肌色の液体が、ビチャビチャと音を立てて床にぶちまけられた。飛沫が私のズボンにまで達した。更に「つ」の字の姿勢の彼女は、洗面器半分ぐらいのモンジャの原液そっくりの液をもう一頻り吐き出して、「ひぃぃ~」と声を上げながら呼吸を確保している。
 嘔吐物はジーンズの裾と靴を濡らし、床の上に立派な池を作って湯気を上げた。
 老婆が身を乗り出してこちらを見ている。(中略―引用者)
 ふとダイアナが顔を上げ、涙目が私を透かして虚空を凝視した。口の周りが汚物でテラテラと光り、顎に飯粒のような欠片が付着している。(p.134) 

最後の、「顎に飯粒のような欠片が付着している」なんてすごく揮ってると思います。あー気持ち悪い。

あるいは、まんまと汚い女を自分の部屋までお持ち帰りした男が、寝ている女の足指を舐める場面。

人差し指と中指の間に黒い糸屑が挟まっていた。私は彼女の指の股を押し開き、それを取り除いてゴミ箱に捨てた。自分の手の匂いを嗅ぐと、ほんのりと煙草臭いだけだった。彼女の爪先に鼻を寄せてみた。親指の爪の端に黒い爪垢が見え、薄っすらとセメントのような臭いがした。私は唇をドーナッツにして、親指の先端に宛がった。マトリョーシカのようなその親指を、丸ごと口に含みたいと思った。舌を少し出し、舌先で爪の厚みとカーブを感じた。するとダイアナが寝返りを打ち、足は毛布の中へと引っ込んでしまった。舌先に、砂を舐めたような味が残った。(p.141)

これも、「舌先で爪の厚みとカーブを感じた」なんていう描写を読んでしまうと、雑誌を開いてこの一文を読んでしまった自分の舌先に、ビリビリと不快な舌触りが再現されるようで、なんとも気持ち悪くなりました。

書いている内容のどぎつさからあまり一般受けしそうな芸風ではないけれども、コアなファンはいるんだろうな思う作家さんです。ラブレーのように、汚物まみれのハチャメチャ長編を書いてくれないかなあ。
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