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橋口いくよ「芸能人気取り」

出典:『群像』2013年4月号
評価:★★★☆☆

短編らしい短編で面白かったです。結婚に際して名字を変更する場面にであう女性ならではのアイディアにまず惹かれましたし、そこからおこるドタバタもこの次どうなるんだろう、と期待をかきたてられました。タイトル「芸能人気取り」がストレートに象徴するように、結婚によって姓名が「マツダセイコ」になってしまった女性が主人公。もっとも漢字は松田政子であって字面は異なりますが音は共通。というわけで、冒頭の病院の会計で、しかもセレブ御用達の病院で「244番マツダセイコさん、ご準備できました」と名前を呼ばれたときには周囲の空気が一変します。もちろん周りの人びとが期待する松田聖子(一発変換)ではないわけで、そのときの気恥ずかしさたるや相当なものでしょう。冒頭からぐっと作品世界に引き入れられました。

そして、このマツダセイコはこの後どうなるかというと

あの病院に行くということは、また人前でマツダセイコと呼ばれるということだ。そんなことになれば、また本物のマツダセイコとかけ離れていることに失望されるうえ、偽キティを見るような目で冷笑され、最後はなかったことのように視線を逃がされる。ダメだ。貰われたばかりの嫁が、夫の目の前で失望されてはならない。偽物でも美しいと思われなければならない。そして、その美しい存在を連れている良太を羨む目があれば最高だ。披露宴の時に、お世辞まじりでありながらも、良太を羨む声があちこちで上がったように。(p.160)

と決意し、徹底的にセレブを模倣しようと決意します。もっともこの決意をした時点で、松田聖子「である」ことは生まれによって根拠づけられているものであって、この松田政子がいくら模倣しようと、松田聖子(に代表されるセレブ)に近づくことはできても、それ「になる」ことは決してできないのだから、敗北を運命づけられたようなもの。この敗北に向かって突き進むのか、それとも別の道が用意されているのか期待がいやがうえにも高まりました。

決意してからのマツダセイコは、髪にコテをあて、ふだん食べたり食べなかったりの朝食をちゃんと準備し、グリーンスムージーまで飲みだします。『Seikoブログ』を開設し、有名人がしゃれたカフェにいったと知ればそこに足を運び、パンを焼いた記事をみれば自分もパンづくりにトライする。徹底して模倣するこの姿には、芸能人情報に安易にながされてしまう人々にたいする批評が備わっています。それに今この作品を読むのなら、芸能人ブログでペニーオークションの宣伝行為が問題化している時期にもリンクしていて読みごろ感がありますね。

そしてラスト。模倣のうえに模倣を重ねたマツダセイコが見出したのは、どこまで模倣しても本物の松田聖子には及ばない、ぴったりと重なることなど永遠にない敗北ではなく、今ここにいる唯一かけがえのないマツダセイコなのでした。他者への模倣を徹底的に繰り返した果てに、本物のマツダセイコ(松田聖子ではない!)に出会うラストのなんと幸せにみちていることか。読後、一読者の自分もハッピーな気持ちになれました。

そして、書き手の橋口いくよ自身も、自分のブログあるんですね(笑)。下がリンクです。

橋口いくよOfficial blog 「Mahalo Air」
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