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岡本学「高田山は、勝った」

出典:『群像』2013年4月号
評価:★★★★☆

星三つか四つでまよいましたが、まあ短編という短さでも結構楽しめたので四つで。ちゃんと読ませる世界としてこの書き手の描く世界を、デビュー作を読んだときと同じく感じられました。社交的でない人間がひたすら部屋に閉じこもって趣味の世界に没頭するというところが、デビュー作と共通。デビュー作では、むりやり外の世界へと開かされましたが、今回の短編は、純粋に趣味の世界にはまりっきりになる。趣味、というのは、大相撲の取り組みを、力士のデータや動作などのパラメータをいじってシミュレートするというもの。アルゴリズムじたいは省かれますが、というかブラックボックスになっているからカオスかなにかかな、とにかくこのシミュレーションを実行している平岡という男にも出力結果=取り組みの結果は予測できません。そしても一人の主人公が、シミュレーション中の、何かがおかしいしかしどこがおかしいか分からないふるまいをする一データの、高田山という力士。小兵の高田山が、本人にも、シミュレーションを実行する平岡にも分からないままに勝ち続けてしまうので、なぜ高田山が勝ち続けるのか、という疑問が駆動力になっています。

自分の人生が誰かに操られているものである、とか、あらかじめ人間を超越する存在によって書かれた筋書きを人間はただなぞっているだけである、といった思想は古今東西かなり反復されている話型で、こういう普遍的な物語の古層にふれつつも、それを日本という文脈で(力士)、かつコンピュータ関連の用語で現代的に変奏(シミュレーション)してくれており、かつ短編として読んで面白い、というなかなかの完成度。

スピノザとかデカルトとかいった哲学系の言葉や、あるいはカオス理論とか複雑系といったニューアカ(死語)くさい数学系の言葉を、へたに持ってこなかったところも節度があって好印象。書き手の岡本学はシミュレーションが専門の大学の先生のようなので、出そうとおもえば専門的な議論を出せたのかもしれませんが、短編の分量でそこまでやってるとさすがにおさまりきらない気がします。へたくそな作家だと、下調べしたことをそのままダラダラ書いちゃうんだろうなと思いました。

またデータ上の相撲取りの名前も、高田山とか浜田山とか味もそっけもない名前。かつ力士たちのキャラクターも細かくは描写されません。これらは欠点というより、この作品の読ませどころが、キャラものではなくて、データたちが予想外の振る舞いをしてしまう世界そのもの、あるいはその世界に翻弄される平岡の世界そのものにあるのだと読めました。人物とかキャラクターにフォーカスするのではなくて、描かれる世界やルールにたいして目配りできるところはなかなか巧みです。

 実際の高田山の設定値を使ってシミュレーションにかけてみれば変化がでるかどうかはすぐにわかるが、それはためらわれた。人体実験にかけているような、倫理的に抵抗に近い卑怯さを感じたのだ。馬鹿らしいこだわりだ、と自分で思いながらも、彼なりのルールとしてシミュレーションに本データを使わないことを平岡は固く守っていた。だから、手元の電卓でいくつか適当な数値例を手打ちで計算してみて多少は結果に変化が出ることを認め、プログラムの修正に踏み切った。あとは、次の場所を待つだけだった。この修正で変わればいい、祈りに近い感情だった。十両一場所だけの優勝ならビギナーズ・ラックで済ませられる。(p.97)

自分のシミュレートするPC中の相撲世界を「これは俺の小宇宙だ」と一人ひそかに作り上げていく平岡が、自分ルールというか自分なりの倫理観を持ってシミュレーションしていく、そして自分で勝手に決めたルールに縛られて、結局望むような結果がえられない(笑)。自閉的な人物が、自分のルール(倫理とか、もっとうまく描かれれば美学ともなりうる)にのっとって行動して、ドタバタあがくというところが面白い。他人からみればどうでもいいようなことに、本人はとことんこだわる、パースペクティブの狂い、あるいは倒錯とでもいえばいいんでしょうか。読みやすい円城塔、といってしまえば失礼かな。

作品にへんな自意識がたれながされないぶん語彙から文体からものすごく読みやすい。しかしこのプレーンな文体で、この人が本気をだせばいまだ誰も読んだことのないド変態文学が誕生するんじゃないかと秘かに期待しています。

(追記)
ああ、これロバート・クーヴァーの『ユニヴァーサル野球協会』のパロディか。今ごろ気づいた。
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