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伊藤計劃「虐殺器官」

出典:『虐殺器官』(早川書房・ハヤカワ文庫・2010年)
評価:★★★★☆

文庫版なので、大森望による丁寧な解説つき。僕はSFはたまにしか読まないのですが、最近の書き手でいえば芥川賞受賞会見にて伊藤計劃の遺稿を書き継いでいると発言した円城塔にしろ、群像新人賞受賞でデビューするも第一著作『ポジティブシンキングの末裔』が早川書房から出た木下古栗にしろ、純文学畑のなかの、外国語に翻訳しても十分通用するだろうなと勝手に僕が思っているこれらの純文学畑作家がSFの分野に活躍の場を移しつつある気配。純文学完全死亡。

そしてこの本。冒頭のつかみでぐっと引きつけられました。

 泥に深く穿たれたトラックの轍に、ちいさな女の子が顔を突っ込んでいるのが見えた。

 まるでアリスのように、轍のなかに広がる不思議の国へ入っていこうとしているようにも見えたけれど、その後頭部はぱっくりと紅くひらいて、頭蓋の中味を空に曝している。
 そこから十フィートと離れていないところに、こんどは少年が横たわっていた。背中から入った弾丸は、少年の体内でさんざん跳ね回ったあと、へその近くから出ていこうと決めたようだった。ぱっくりひらいた腹からはみ出た腸が、二時間前まで降っていた雨に洗われて、ピンク色にてらてらと光っている。かすかに開いたくちびるから、すこしつき出た可愛らしい前歯がのぞいていた。まるでなにか言い残したことがあるとでもいうように。(p.11)

立ち読みでここを読んですぐレジに持っていきました(笑)

国際謀略を軸にした戦争小説で、外国要人暗殺部隊のアメリカ人兵の一人称語りの物語です。戦闘に関する組織、兵器、兵站、諜報のディティールが一つひとつ細かく、舞台が近未来ということともあいまって、その描き込みの執拗さは大友克洋を思わせるものでした。

序盤から謎めいたターゲットにされているジョン・ポール(ビートルズからの命名でしょうか)の発見した「虐殺の文法」なる物騒なものを、世界に散布することによって国外に向かうテロの衝動を国内での虐殺に転換する着想には痺れました。もしそんな文法があればそれを使わない手はないですしね。

ディティールの凝りよう、キーとなるコンセプトと全体構想の重厚さ、一発で印象に残るタイトル、文句なしに質の高い作品でした。すこし思弁的すぎるところや、こなれない生硬な文体といえなくもないですが、デビュー作だということを踏まえれば全然気になりません。90分のアニメ映画にも十分なるだろうし、スピルバーグ監督の戦争映画にもなるだろうし、ノーラン監督のサスペンス映画にもなりそうで、とにかくいろんな方向に展開していきそうなエネルギーに溢れた作品でした。
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