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門脇大祐「蛸の夢」

出典:『新潮』2013年7月号
評価:★★★☆☆

新潮新人賞受賞第一作。前作掲載が11月号だったのでいいペースで書いてるんですね。新人賞をとっても以降沈黙して続かない方も少なくないなか、発表できるレベルの次作をさっと用意できるのは読み手としてもうれしいかぎりです。

本作は、「この世界は一匹の蛸が見ている夢」だと一人確信を抱く二十三歳の升井直行の日常。かかわる人間に自分の確信を語るけれど、あたりまえのように誰一人信じてくれないか、馬鹿にするかで取り合ってくれません。といって、直行が頭おかしいタイプの人でもなさそうで、仕事はきちっとこなしているようです。へたに書き手が面白がっているだけのドタバタものにしてしまわなかったのはいい判断。

デビュー作ではクラゲで今回はタコ。世界観のどうしようもない隔たりは埋めようもなく、「自分はそう信じてるんだ!」という主張は、肯定する材料も否定する材料も他人には一切与えられないので、直行のようなタイプの人が身近にいればめんどくさいなあと思います(笑)。フロイト先生ならきっと、「このマスイナオユキという男性は、幼いころ海辺で、蛸のように頭の禿げた成人男性によって、身動きできない体勢を強制されて、カマを掘られたに違いないディッヒ!」とかいいかねないレベル。それくらいの無茶な論理をもってこないと凡人には納得できないレベル。

息の長い文章がときどきでてきますが、タコの見た夢を描くのにふさわしく、うねうねと続く文体はテーマにふさわしいものです。かつたとえば、長い文章を書いて読者をけむに巻くようなの作家とはちがって、長いにもかかわらず順序どおりに文字をたどれば頭の中に文意が自然とはいってくるようなうまさは、よく練られている努力のあとをうかがわせます。

入社したばかりだったころ、設計手順の打ちあわせをするという樫尾社長に同行し、バスに揺られ、たどりついた出先の事務所の背景を埋めつくしている建造物の群れ、それが石油プラントだった。埋立地の、工場の並ぶ一帯のなかで、そこだけが金属の構造を外気に露出するように、海に面した広大な敷地に並べられた巨大なタンクから、配管が縦横に伸び、重なりあって折れ曲がり、繋がっていった先の錆びついた別のタンクから、前後左右に騙し絵のように配管は張りめぐらされ、鉄の柱と骨組みのなかに寄り集まり、わきで、煙突がもくもくと黒い煙を空に吐きだしていた。区切る場所を探そうとすると、となりに配管が繋がっていくものだから視線は散り散りになり、区画の境目もよくわからず、中心部がどこにあるのかもわからず、絶え間なく石油が流れているのであろうひとつひとつの配管には、もちろんねじが取りつけられ、組み立てられているはずで……直行は、吐き気に見舞われていた。(p.104)

書き写していて思ったのは、読みやすさの工夫の一つに適切な点の打ち方があるんですね。要所要所の語句の区切り、意味の区切りにちゃんと律儀に点を打てる。あとは、勝手な推測ですが、文章のなかに自意識をねじ込まない節度があるというのか、「どうです私の文章うまいでしょ?」みたいなナルシシズムが脱臭されているので、すっと読み手の頭に入ってくるというのもある。そういえば、石油プラントの配管設計を任されている会社ではたらく升井直行という名前の漢字も、縦横の線で構成されるもののあつまりで、さながらプラントのパイプが縦横につながっているがごとくです。そして、そのパイプと形態的に相似の蛸足。

場所の選択も適切ですね。本人にとってはこれ以上ないリアリティをもつ妄想に終始つきまとわれながらも、一般人の日常生活もおくる人間が生活する場所として、浜辺。海と陸とが境界を接している場所は、浦島太郎を思い出すまでもなく異界への入り口がひらく場所です。

そういやデビュー作でも、主人公がつきあってる女の子の首を絞めていましたし、本作でも蛸が人を絞めるし、じゃあ次回作でも絞める展開をきたいして、絞殺三部作として本ができるかもしれませんね。完全な妄想ですが。
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