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村上龍「イビサ」

出典:『イビサ』(講談社・講談社文庫・2002年)
評価:★☆☆☆☆

著者あとがきにあるように「破滅的なストーリー」でした。扱っている内容、登場人物、ストーリー展開はどれも頽廃的であったり、破滅的であったり、不道徳であったりと、『限りなく…』の延長線上にとらえられなくもないこの作品の舞台はほとんどがヨーロッパです。美食、かわった食べ物、飲み物、異国情緒あふれる衣装、民族、土地など、日本に住んでいたら想像するほかないような、エキゾチックでロマンチックな事物がたくさん出て来ます。

しかし、これほど珍しげなものをたくさん出しながら、それぞれが一つの作品のなかで機能しきっていないというか、その場その場で出ていっては消えてゆく、何のために出てきたのかわからないモノばかり。読み手に、ちょっと高級な雰囲気や異国情緒を味わわせればそれでよしというような、読者をなめきった投げやりな書き方としか僕にはうけとれませんでした。

文章もその場の勢いで書き連ねただけのような、なんのヒネリも批評精神もレトリカルなしかけもない、ただただ原稿用紙の升目を埋めるためだけに文字を連ねました、というような箇所に何度も出会って辟易。全体とどう関係するのかわからないような場当たり的な記述を連続して読むのは結構苦痛なものです(じゃあ途中で読むのやめればいいだけ、という考えもアリですが、もしかしたら面白いところがちょっとでもあるかもと思って結局最後まで我慢して読み通しました。期待は外れましたが)。贅沢なものに劣等感でもあるんじゃないかと思ってしまうくらいスノビッシュな記述の連続、これがこの作家の人気の秘密なのかなと思わないでもありません。

性にまつわる行為や部位の名前が頻出するのが一つの特徴で、これが著者のいうところの「破滅」につながる一要素であるのは間違いありません。だけれど

もっとはっきり言えば例えば男性器への恐怖と餓えを意識したとたんに内部が発生する。まるでセザンヌが描いた果物のようにはっきりとした輪郭でわたしは形ある欲望を自覚した。(p.194)

という記述を読んだときに、はたしてこの村上龍はセザンヌをちゃんと見たことがあるのか疑いたくなります。印象派よりは、たとえばフランドル派なり、輪郭だけのことをいうならば浮世絵のほうがセザンヌよりははっきりしてるはず。「いや、ここは語り手がセザンヌを誤解してるのであって書き手の村上龍は関係ないのだよ」という言い方もここだけとれば成り立ちはしますが、高級ワインの銘柄や珍しい食事の素材(ただしそれらの味わい、食感についてはあまり言及がないか、あってもきわめてあいまいな比喩で誤魔化していて全くといっていいほど「食べる」という感覚を読み手につたえません。)にやけに詳しい語り手なので、絵画の知識だけが足りないというのもなんとなく非一貫的で納得いきません。書き手の誤解として受けとるほうがすっきりします。

こうした記述レベルでのなげやりさに加えて、ストーリー展開上キーとなる、「ガイド」の説明や、語り手の内部で声としてたびたびあらわれる「ジョエル」が何者なのか、さらには物語途中で現れる霊や、ペニス・ホログラフがいったい物語の進行上どういう役割をあたえられているのかもわからずじまい。思わせぶりなだけでなんのヒントも結論も、一つの結論とはいわなくてもいくつかの解釈の可能性すらものこさない書き方は、これまた投げやりで場当たり的なものとしか受けとれません。

作中には自称「詩」も出て来ますが、地の文を読点で行変えして分かち書きにしたものでしかないもので、詩が出てくる必然性が感じられない以前に、それが詩として成立していないものもあります。これも升目を埋めたかっただけかと思わずにはいられない。とにかくあらゆるレベルで、読み手をナメた作品でした。

同様にヨーロッパを彷徨して自分を探すストーリーで、途中で現地の人とであったり、官能的な出来事がおこったり、詩が出てきたりする話であれば、たとえば諏訪哲史『ロンバルディア遠景』をあげたくなります。この『イビサ』の作者は、圧倒的に後進の、けれど作品としては一歩も二歩も前に進んでいる『ロンバルディア遠景』を読んで自分のやっつけ仕事のだらしなさを恥じればよろしい。

窓ガラスを隔てて聞こえてくる波の音をわたしは波の音は日本も地中海も同じだなと思いながら聞き、階下で行われて床と壁を通して聞こえてくるジルとジョンストンの口論を波の音に似ているなと思いながら聞いた。(p.147)

こんなだらけきった文章を書く作家の作品は、この世から消えてなくなってください。売れる作家ですし人気作家だから編集者の方も軽々に意見できないのかもしれないでしょうが、真摯な書き手・読み手の目に『イビサ』がかなうものかどうかもうちょっとちゃんとチェックしていただけないものでしょうか?
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