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淺川継太「ある日の結婚」

出典:『群像』2013年7月号
評価:★★★★☆

今週の『群像』の特集は、「若手男性作家が描く、性・愛・恋──3篇の〈彼と彼女〉の物語」だそうです。そのうちのひとつ、淺川継太「ある日の結婚」。デビュー作から2、3年間があいて、授賞後第一作を発表というペース。たしかデビュー作で安部公房を彷彿とさせるという選評をうけていたと思いますが、今回の作品もたしかに安部公房経由っぽい比喩や文体が味わえます。もっとも、安部公房作品の場合、現代社会にたいする批評をいれないといけない(いれておきたい)という時代的な気負いも感じられますが、本作はそういう堅苦しさ(えらそうさ)はなく、アイディアと描写でみせる作品になっていますね。

冒頭こんなかんじ。

 電車を降りると、もう分かってしまう。今朝もきっとそうなるという確信がある。(p.122)

ここを読み終えた時点ですでに作品世界にぐいっと引き込まれますね。「もう分かってしまう」→何が? 「今朝も」→毎朝のことなの? 「そうなる」→どうなる? 目的語の省略や、作品世界の日常的規則の暗示、のっけからの指示語の使用。どれも読み手のあたまのなかに、いくつもの「?」を発生させます。この冒頭のつかみから、面白い比喩が続出してずっと作品を読ませられました。

なんだか金属の感じがする、ほっそりした足首……いつか理科室で見た、小さな分銅が詰まっているみたいだ。(p.122、強調部は原文傍点)

この足首をもつ女性と、毎朝、文字通り一日もはずすことなく、駅ですれ違うことになってしまっているのです。

これはコロンブスの卵的発想だと思いました。所詮は作者の筋書きにしたがって動くにすぎない人物や起こる出来事を、いかに「わざとらしくなくみせるか」はおそらくどの書き手も苦心するところのはずです。あまりに作者の手つきが見えてしまえば、読者は「ご都合主義だ!」と怒って本を投げ出すだろうし、作者が作為を気にしすぎれば人の動きや出来事が起こりにくくなる。あるいは説明くさすぎるはめになる。他ジャンルで許容されるご都合主義の度合いも、純文学ではかなり厳しい気がします。そこでこの作品の発想。

「偶然」毎朝出会ってしまう女性がいる。こんな偶然はあるはずないのに、しかし時間を変えて電車に乗っても出会ってしまう。この、作為中の作為を謎として作品の出発点にすえて、物語を動かすのはまさに逆転の発想でした。そしてこの偶然をいかに説明するか、なぞをいかに解決するかが、読者の読みを引っ張ります。

で、出落ちにもならず駅で偶然であい続ける男女は同棲をはじめます。恋愛関係にあるものどうし、「あなたを食べちゃいたい」という比喩表現がありますが、その表現を文字通り表現する描写にはおかしみもあり、「このあとどうなるの?」という興味も引かれぐいぐい読まされました。

そして、凡庸な書き手なら食べるだけで終わってしまうと思いますが、淺川継太の場合はその先を用意します。

二人の人間の体がくっついているというより、頭が二つはえている一人の人間と言った方が近い。いや、その二つの頭というのも、原形がどんなだったか知っているからこその数え方であって、むしろ強度の近視者の視界でぶれて見える一つの頭という感じだ。顔の中心線に、目の錯覚のような光の……肉の切れ目があり、その右側がぼくの顔、左が彼女の顔になっている。ただきれいに半分ずつというものではない、鼻は二股に分かれて穴が四つあるし、唇も、大きな口の真ん中をホチキスで閉じたというふうに、∞(無限大)のマークのようになっている。(p.151、強調部は原文傍点)

このあともしばらく男女が合体した人間の描写が続きます。これも考えてみると、新しい人間=赤ちゃんが誕生したときに、「この部分はお父さん似、この部分はお母さん似」と指摘しあう微笑ましい場面が思い出されますが、じっさいにこんな合成人間が描かれると、かなりグロテスクなものになってしまいます(笑)。

ワンアイディアで安心してしまわない、さらにその先にお楽しみを用意する書き手は、小説読みにとってはうらしいかぎり。アイディアを具体的なイメージとしてどんどん展開できる確かな描写力もいいですね。この書き手の文体、作風は高いレベルで安定しているので、これから先、どんどん作品を書いてくれることを期待したいです。
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