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マブルーク・ラシュディ/中島さおり訳「クリモ、モン・フレール」

出典:『文學界』2013年7月号
評価:★★★☆☆

慣れ親しんだものをまるで新しいものを見るような眼でとらえる、文学の技法でいえば「異化」です。外からの眼でもって内をとらえる、惰性に眠ってきた眼を覚まさせるような表現ができれば異化は成功でしょうね。本作、「クリモ、モン・フレール」は、日本を外の目から捉えようとする要素のある作品です。

アルジェリア移民の両親をもつイスラム教徒の女性アリが、死ぬ間際の弟と交わした約束をはたすため日本を訪れるというストーリー。アリの眼を通して描かれる現代日本の人や土地が、見慣れたものを一風変わった描写で楽しませてくれます。

 大阪APAホテルの前には大量の傘が置かれていて、リラは戸惑った。グリニーだったら、傘はもうとっくになくなっていたことだろう。警察員の緩い監視のもと、受付にびっしり置かれたスーツケースにしても同じことだ。持って行き放題なのに、誰も盗ろうとしないのだ。泥棒は、日本では絶滅種なのだろうか?(p.51)

ありきたりといえばありきたりなんですが、外の目から見た驚きというのはあらためて「こんな風に感じるものなんだなあ」と再確認させられました。本作品では、まあよくいわれる部類の言い草のオンパレードなので僕はそれほど目新しさを感じられませんでした。『ワンピース』やタケシ・キタノのバイオレンス映画にしろ、まあそうだろうなという感じ。

これはちょうど、芭蕉が歌枕に詠まれた地を訪れたときの眼みたいなものでしょうね。初めて訪れる目の前の土地をありのままに見ているのではなくて、目の前に広がる風景を、西行の歌や読本のなかの描写と照らし合わせてその一致度を楽しむという感じ。この作品の、いかにも外国人が訪れそうな場所を見ての感想について、さもありなんと思えるのもたぶんこういうところに根っこがあるんじゃないかな。アリがもし、西成区あたりを歩けばきっと自分の育った土地との親近感を感じられたはずです。傘だって取られる可能性はぐっと上がります。

さて。ということは、ただ外国から日本を訪れれば(あるいはその逆のことをすれば)、自動的に異化が可能になるというわけでもないわけですね。そこには緻密な観察と比較が必要で、さらにはそこからえられた洞察を表現する文章のちからまでも要求されるはず。たんに外国にいって「外から見た日本」みたいなものを書こうとしても、ちょっとした面白話程度のものか、外国人向けの日本の観光案内をなぞるくらいのものしか出てこないでしょうね。いっぺん書いてみて、自分がどや顔で書きつけた異化もどきがあまりにステレオタイプの日本像しかでてこない地点にたってはじめて、本当の異化にむけたスタートラインについたといえるんじゃないでしょうか。

この、細切れの面白話だけだったらこの作品にたいする評価は低かったですが、短編の分量で、ちゃんと小説としての仕掛けもあってなかなか巧みだなとも思ったので、星三つにしました。仕掛けというのは、アリの眼に映る大阪の市街地や人の描写にはさまるかたちで、弟の幼い頃から死ぬまでの人生を回想しながら、その死にまつわる謎に少しづつ迫っていくという謎解きの手法。なかなか読み手を飽きさせません。最後に近づくにしたがって、パズルのピースがひとつひとつカチカチはまっていく感じは、読みすすむにつれて爽快感を増大させてくれました。まあ、オチは読めちゃったんですけどね(笑)。
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