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青木淳悟「私のいない高校」

出典:『群像』2011年2月号
評価:★★★☆☆

『本格小説』がロマンにロマンをこってり重ねていったロマンのn乗の話だとすると、この小説を読み終わって思ったのは、ロマンからロマンらしさをできるだけそぎ落とした、遅れてきたアンチ・ロマンとでもいえばいいのかな。読後、「ふしぎな」とかしかいいようのない違和感を残してくれました。自分の感じた「ふしぎさ」はひとえにこの小説の、他の小説とは明らかにちがう、でもこれも小説といえる、そんな特徴にあるとおもうので、その特徴をいくつかに分けて考えてみます。

この作品のストーリーをいってしまえば、カナダからやってきた留学生のナタリーと、日本の女子高生やその担任、ホストファミリーたちがすごす三カ月の話。これだけだと、文化のギャップからドタバタがおこったり、恋愛があったり、青春があったり、なにか設定だけで「お話」がたちあがってきそうな気もします。しかし、この作品にはそういう「お話」としては展開しません。ありきたりな小説を拒否する姿勢です。まさにアンチ。

読みはじめてすぐおもったのは、「これは小説じゃなくて、業務日誌だ」というもの。作中ででてくることばは、何々があった、誰誰がどうした、という事実文の報告、説明のオンパレードです。でてくる人物の主観や心理を描写するくだりもあるのはあるものの、翻訳文のような受け身形で表現されることがおおいです。

今回留学生が目指すのは三級だが、日本語を母語としない者に対して多くの大学が、一級から四級まであるうちの一級の取得を出願要件としているとのことで、日本語能力試験の存在自体を最近知った担任には興味深く感じられた。(p.37)


最後に登場人物のクレジットが登場順にならんでリストででてくるんですが、この作品ではどの人物も「他人」と感じてしまいます。いいかえれば、「私」としてとらえられない、自分にひきつけて考えられない。業務日誌という感想をもったひとつには、そういうクラスメイト(やそれを記している担任までも)に客観的な距離をとって淡々と記述しているかのような体裁がとられているかもしれません。発表時はたしか、「主人公のいない」小説としてこの小説のことがとりあげられてた気がします。そしてそれはそうでありつつ、どれもどこか「他人事」としてとらえてしまうような仕掛けになっているところからも、「私」のいない小説と捉えられるかもしれません。

この作品ひとつを通読して、狭い意味での読みの制度があぶりだされます。「読者が感情移入できる人物を描かなくちゃならない」「心理を描かなければならない」。こういう考え事態、なんか時代を感じますが(笑)、本作を読むなかで、なかなか入りこめない自分を発見すると、あらためて自分もそういう予断をもって本を読んでたんだなあということが知れました。

文章の特徴としては、ほぼすべての文末が「た」で終わっています。これも、「日本語の特徴として文末の表現が「た」で終わって単調になってしまう(だから書き手はそうなる事態を避けるべきだ)」という暗黙のルールに、アンチを唱えるような書き方です。そして、たしかにこのルールのいうとおりこのような内容でしかもこんな文末を連発されると、ものすごく単調でさらに作品世界に入りこめなくなってしまいました。そして自分の思い込みをふりかえって、「まあ無理に入りこまなくてもいいのかな」とも思うようになりました。

こうして、徹底的に「ありきたり」を拒否する姿勢が貫かれて書かれた作品だからこそ、作中に紋切り型がでてくると、ほっと安心しもしました。水が飲みたいのに水が一滴もない砂漠を「もう限界だ」とさまよっていたら、ぽつんぽつんとオアシスがあってのどの渇きをいやすような感じといえばいいのかな。たとえば、

町田駅での待ち合わせから同国人とのパーティーを楽しんで家に帰宅するまでのことをぼんやり頭に思い浮かべたりした。「無事、家に帰り着くまでが──」(p.54)

生徒は一度は起きてこれを聞こうとしたものの、ほとんどが興味もないし眠いといった態度であり、無線塔の紹介が済んで楽にしていて構わないと言われた途端、また眠り込む動きがあちこちで起こった。その「トラ、トラ、トラ」の打電から「リメンバー・パールハーバー」のことまで、話の間に私語こそ出なかったものの、担任は傍らで聞いていてもまるで手ごたえが感じられず、あとで大久保主任とは「やはり女子高生には──」という話になった。(pp.90-1)

決まり文句は言わずともわかるということで、上の引用では「──」で省略してありますが、先に続く文字列を読んでいればこの「──」に入る部分も、読者はそこまでの流れから自分の頭で補って読むことになります。延々報告書のような文章を読んできて、この、「自分の頭を働かせて読む」という瞬間の喜び(笑)。

ありきたりの小説に飽きた人、たくさん小説を読んできた人には結構楽しめる、普通じゃない感じがある不思議な作品です。僕にとっては、「まあこういう小説もありなんだろうけど、二回目は通読しないだろうな」という類の作品でした。
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