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北野道夫「失踪」

出典:『文學界』2013年7月号
評価:★★☆☆☆

これも二人称。二人称のしくみと効果については「爪と目」書いたのでこまかくは繰り返しませんが、要点だけもういちどさらっておくと、呼びかけ手と呼びかけられ手との関係のなかで、「あなた(お前、貴様etc.)」という呼び方が、両者の関係を適切に表しているかどうか。ここがポイントでした。

この作品の冒頭では、

 お前の叫び声が聞こえる。(p.104)

とはじまって、叫んでいる「お前」と、その叫びを聞いている語り手がいることがわかります。ただしすこし読み進めると

お前は電車の騒音に搔き消されてしまうのをいいことに力の限り叫んでいる。聞こえないはずの、分らなかったはずのお前の叫び声が、私の頭の中で鳴り響くたび、私は生まれ変わったように新たに呼び起こされる。(pp.104-5)

とあって、冒頭の第一分では、叫びが聞こえていたはずにもかかわらず、ここで「お前」の叫びは電車の音でかき消されている。また、「頭の中で鳴り響く」というのも、直接聞いているのか、語り手の頭の中でだけ響いている想像上の声なのか判然としません。

出だしのこのあたりの違和感というか、謎を解いていく作業がこの作品のこれ以降の読み方になりました。ただし、視点がこの語り手には固定されておらず、ほぼ全知の語り手、いわゆる神の視点めいた立場から語り手が語る箇所もあったり、それまで語られていた内容と似たような状況のテレビドラマの状況が突然さしはさまれたり、今度はこのテレビドラマに似た出来事が語り手の身の回りおこったりして、この作品の読者は、終始安心できません。このあたりに快感を感じる読者もいるのかもしれませんが、僕には不快なだけでした。作者都合で読みを撹乱されて、「実はテレビドラマでした」とか「実は語り手の頭の中で響いている女の声でした」との種明かしをくりかえされる。描写もエピソードもたいして興味を引くものではない。作者の自己満足しか感じられません。

それに、この語り手と「お前」との関係も二人称を必要としているようには読めませんでした。語り手が誰なのか、最後にうんざりするような種明かしがあります。

あの日、私はお前から出てきて、お前を取り巻くあらゆる人物や自然、すべての言葉や出来事になった。(p.137)

「お前」と呼びかけながら、「お前」の内的独白を忖度したり、赤の他人に視点がうつったり、ほかにもいろいろ視点が拡散してきた書き方について、最後でこんな言い訳するくらいなら、最初からオムニポテントの視点で書けよと思います。ここまで作者に翻弄されてきたものとしてはがっかりしかしませんでした。なんというか、書き手一人が面白がっていて、読者は延々それにつきあわされているような感じ。芸人が自分一人で面白がっている芸を、観客は終始白けてみている感じ。「で?」っていう。

作品にいろいろ仕掛けをいれるたくらみは書き手として素晴らしい姿勢だとしても、それが実際効果をあげるかどうかというとまた別モノです。いろいろ企むことが好きそうな書き手ではあるので、一度、読者にもわかりやすい、エンタメ寄りの作風で書いてくれればきっともっと読まれる人だろうなと思います。今のままだと「狭い」ですね。
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