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神里雄大「亡命球児」

出典:『新潮』2013年8月号
評価:★★☆☆☆

饒舌な語りで、語り手の妄想が展開されるお話。北京に行く約束をすっぽかして頭のなかでうだうだいろんなことを考えながら、図書館に行く………と、ここまでは日常的な設定なんですが、

図書館に着いて、重い扉を開け中に入った。かつて図書館だったこの場所は、いまや難民センターと化していて(p.113)

と、日常的な世界から遊離します。遊離しはじめたところで作品が終わってしまうので、正直なところもうちょっと続きがあれば読みたかった、そんな作品でした。話が面白くなりそうなところでブツッと切れた感じ。連作かなにかの一つなんでしょうか、これ。

饒舌な語りや、現実と妄想の生き来、また表現やレトリックでもいろいろ工夫しているところがみられて、僕には筒井康隆の作品を読んでるようにも感じました。

眠気の波をサーフボードでかきわけ(この表現は陳腐だと思うけれど)(p.106、括弧内原文以下同)

昼まで眠っていたってよかったのに、寝室もこの居間もサウナ状態で(サウナ状態とよく言うが、本当にサウナ状態だったらとんでもない)(p.106)

まさか冷水に浸かって眠れるわけがない(死んじゃうよ)(p.106)

引用元のページ番号みてみればわかるように、同じページに近だけわんさか丸括弧にくくった自己注解が頻出します。括弧内の突っ込みは平凡だし、大して面白くないので、これを書き手の神里雄大が面白がって書いているようならどうしようもないセンスだとおもいますが、まあこれは一人称の話だし、この括弧内の平凡さ、サムさもふくめて、語り手の特徴なんだろうなと納得しました。暑苦しい部屋で、こういうウザい妄想を語りくだすには、こういう語り手も効果的ですね。

表現の工夫ということでいえば、女性の体を征服する様子を、日本全国の旅行にたとえて語る仕方も面白く読みました。

百合子はまだ寝ぼけていて、やっぱり酒臭かった。正直、いい気分はしなかったが、酒臭いくちびるを、舐めまくった。俺も汗だくだった。汗と汗とが混じる感覚、百合子のケツと脈打つ俺の股間。甲子園で俺は日本を制覇できなかった。出てもいない。でも、俺は百合子をこれから制服することで、日本を制覇できないものかと考えた。そう考えると、酒臭い百合子の口は、草原の広がる、遥か大地の青々とした空へつきぬける風の、牛の鳴き声と、メロンのプリンとした甘みなどを感じさせた。同じサンマでもこの北の大地では別格で、生乳を飲んで味噌バター、君の鼻筋はノルディックのジャンプ台。首筋はさしずめ東北地方かな、舐めまわす。だが、このあたりはネックではあるけれど、ある程度にとどめておけばよいだろう。りんごと盛岡冷麺と牛タンの絆。きりたんぽにさくらんぼ色の首筋をすり抜け、鎖骨のあたりにハワイアンセンターの苦しみを感じ、そのあたりは適当に済ませ、さっそく関東を焼き討ちだ。(pp.109-110)

この後も、西日本に入って行きます(笑)。エロに関する行為や部位を、こうして別のものごとで置き換えて諷喩的にメタファーを連続させるという手法は、たぶんずっと古くからあって、最近訳された本でいえば、小林章夫訳の『エロティカ・アンソロジー』(研究社・2013年)のなかにも、旅行案内記を模した体裁で、女性を口説き、体を開き、結婚し離婚することごとくをつづった面白い作品がありました。それは18世紀の小説だったので、実に2、300年前にすでに採用されていた方法を、こうして反復している。

それでもこの作品の上の表現が新しいとすれば、最初は書いている内容からエロい行為を想像させる方向だったのが、「メロンのプリンとした甘み」あたりからベクトルが逆転して、日本全国名物案内を書く(語る)行為自体に、記述の力点がシフトしています。「りんごと盛岡冷麺と牛タンの絆」なんて、この表現でどの部位を使ってどんな行為がおこなわれているかは、もうほとんど想像つきませんものね。ご当地グルメに何の意外性もない物産をチョイスしているあたりもふくめて、このサムい語り手ならありなんだろうな。語りの自己目的化、オナニー体質。日本に見立てられた女性は一方的に、男の欲望の対象でありつづけるままです。

語り手の気もちを忖度すれば、語ること自体が楽しいんだろうなと、ちょっと突き放した見方をしてしまいますし、書き手の気もちを忖度すれば、書くこと自体が楽しいんだろうなと、この作品でいろいろみられた工夫の跡を読んでおもいました。でも、けっこうスベッてしまうところ、わざとらしすぎるところ、ベタすぎるところも筒井康隆の悪いところを読んでいるようで、まあ通読するといまいちでした(笑)。
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