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中納直子「おにんぎょさん」

出典:『群像』2013年9月号
評価:★☆☆☆☆

評価は星1か1.5です。女性作家が女性の性を書く作品は、円地文子や瀬戸内晴美から山田詠美、川上弘美を経て、山崎ナオコーラや村田沙耶香へ、と日本の女性作家だけでもいつまでも名前を挙げていられそうなほど、多く多く書き継がれてきました。円地文子の書きはじめたころこそ、「女性が女性の性を赤裸々に!」なんていうことばも褒めことばとして通用したかもしれませんが、今や女性が性欲を持っている(持て余している)なんて常識で、それを描いただけでなにか作品になるとは思いません。なにか+αが欲しい。それは作家が追求したいと強く願うテーマであったり、文学史上の重要なトピックにかかわるものであったり、はたまた誰も書いたことのないスタイルであったり。この「おにんぎょさん」から、僕はその+αの部分を読み取ることができませんでした。

三十代半ばのカフェ経営者の女性、綾乃が、バイトの学生男子と肉体関係をもつというストーリー。へたくそなセックスに欲求不満がたまり、女性用ダッチワイフ(作中のことばではダッチハズバンド)を購入しクローゼットの中にしまっておくも、バイトの男の子とセックス中に開いたクローゼットの扉から都合よくこの「おにんぎょさん」が飛び出してしまい、都合よくバイブレーターが作動し、びっくりした男の子は裸のまま部屋を飛び出て警察に駆け込むのでした。

この「おにんぎょさん」には、馬のかぶり物がかぶせられています。友人の男性が引っ越しする別れ際にプレゼントとして置いていってくれたかぶり物で、「おにんぎょさん」を起動させるときには、その男性(馬面です)のことを思いながら欲求不満を解消していたのでしょう。このへん、人形愛とか物心崇拝とか、本気で書けばいろいろ妄想広がるおもしろげな片鱗もあるのですが完全に筆力不足で、なんの深みもありません。

また、バイトの男の子からの訴えを受けて駆け付けた二人組の警官のふるまいの描き方も杜撰。

「う、馬の被り物を被せられてるっ」
「なんやて? 息はあるんか?」
 若い警官が彼に近寄り、恐る恐る肩を持ち上げた。
「うわあっ」
「どうした」
「上島さん、ひどい、体が改造されている」
「なんやて? どこをや」
「一番大事なところです。バイブに付け替えられている」
「上島さああん」
「落ち着け! 脈確認しろ!」
「う、うう、な、ないっぽい」
「なんちゅうこっちゃ。なんちゅうエグいことを。大事なもんはまだ家の中にあるんか? その被り物取れ、落合」(p.168)

読者はもちろん、この二人の警官が男性の死体と取り違えている物体が「おにんぎょさん」であることを知っているので何の驚きもありません。白ける読者を前に、警官ふたりがわざとらしいことばづかいで、テレビドラマでもやらないような態度でこれ見よがしに驚き、取り乱してみせる。しょうもないものも分かってやっているのなら、その作為がわかるように書くのがクレバーな書き手だと思いますが、この作品にはそんなところもなくただただステレオタイプな人間が、ステレオタイプなことばをつかって、既視感ばかりしかのこらないやりとりをする。もう最後の方は流し読みでした。

作品冒頭に二人の警官が驚くやりとりを配置して、それからそこに至るまでの過程を時間をさかのぼって描く、というようにプロットを工夫するだけでも少しは読めるものになったかもしれません。短編だし。もっとも描写力がこれではやっぱり駄目な気もしますが。

作品終盤のいりぐちで、警官が綾乃の部屋に押し入りいきなり組み伏せますが、そんなこと日本の警官がやるでしょうか。裏付け捜査もしてないし、現行犯でもなく、もちろん令状なんて持ちあわせない、ただ裸で交番に飛び込んできた若い男の証言だけを頼りに、無辜の市民に対して住居侵入、暴行を犯す。フィクションであっても、そのフィクションの世界のなかでのアクチュアリティは必要でしょう。これでは、ありえなさだけが際立ちます。

この作品を、中納直子はどういう思いをもって書かれたのでしょう。女性の性を描いた他の作品と比べて、この作品のどこを優れているとか、面白いと思ってこの作品を書かれたのでしょう。暇つぶしの軽い読み物としても、僕には落第作品にしか思えません。お金をとって他人に読ませうるプロの作品でしょうか?本当に、心から、こんな作品が書きたかったのでしょうか?
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