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絲山秋子「今は限り」

出典:『新潮』2013年10月号
評価:★★☆☆☆

掌編です。意識はあるけれど身体の自由が利かず指一本動かせなくなった男がいろいろと頭の中で考えを巡らせていくうちに身体が腐ってしまう、というお話。なにぶん短いので、ストーリー云々の感想を書く自信がありません。よって思いついたことを以下適当に。

 気がついたときにはもう体が動かなかった。体が動かなくなってから気がついたのだった。
(毒虫か、それとも山椒魚にでもなったのか)(p.128、括弧内原文以下同)

とお話は幕をあけ、口も動かせないのでこの男の想念は丸括弧にくくられています。どうしてこうなってしまったのかその理由や原因は読者にはあたえられず、というか本人にも思い当たる様子はありません。一種の不条理もの。しかし深刻になるわけでもなく哲学的になるわけでもなく、ただただこの男の考えることがひたすら日常的なところにおかしみがあります。この男の詳細や外見はほぼ書きいれられていないですが、絲山秋子はどういう人物として設定したのか、その裏設定みたいなものが気になります(もしかすると詳しい設定はないのかもしれません)。

与えられた断片から勝手に推測するに、この男はオネエ的な要素を持った人物じゃなかろうか、と読み進めるうちに思うようになりました。

(この時間に死ぬのはいやだな)
 手遅れ。そう、かれは致命的なことを思い出す。
(しまった、冷蔵庫に紫キャベツと手羽元が残っていた!)(p.129)

(昨日のメシってどうしたっけ)
(ああ、グラタン食ったんだったな。やけに暑い日だったのによりによってグラタンをおれはわざわざ作って)(p.129)

一般的に、身体がうごかなくなったとしても、家族か近所の人かに発見されそうなものですが、この男はそういうところもありません。孤独なんでしょう。孤独な男がちゃんと自炊しているらしく、大変な状況のなかでも冷蔵庫の中身に執着している(笑)。しかも孤独な男が買ってくるにはあまりありそうにない食材です。ふつうの緑のキャベツではなく、紫キャベツ。同じ鶏肉であっても、胸肉や腿肉ではなく手羽元。それに、暑い日なのにわざわざグラタンをつくっちゃうという料理好きっぽさもあります。本人は気付いてないものの死にそうな状態にもかかわらず冷蔵庫の中身に執着している状況は、「地獄八景亡者戯」のサバに当たって死んだ男とも通底する馬鹿馬鹿しさがありました。

そして意識がだいぶ混濁して最後には、

 派手なシャツの男は自分の肉体もまた鶏肉や紫キャベツと同じように腐敗していくということに、最後まで気がつかなかった。かれがもはやそこにいないのであれば死体はかれのものではなかった。完全に無関係とは言いがたいが、別物であった。冷蔵庫で腐敗していく鶏肉よりは近しく、そして鶏よりははるかに厄介で悲惨の度合いが大きかったがそれはかれの知るところではなかった。(p.132)

派手なシャツを着る孤独な男性。これはオネエです。すくなくともオネエ的な要素はある。

孤独死は誰にとっても想像しただけで恐ろしいものだと思いますが、それに対する恐怖は女性のほうが強いのかもしれません。というのは全くの偶然ながら、ヘレン・フィールディング『ブリジット・ジョーンズの日記』を読んで、主人公のブリジットが孤独死、それも孤独死の果てに腐乱死体として自分が発見されるバッドエンドを想像して身震いするシーンが再三でてくるのを最近読んだから。絲山秋子は、たぶん、というか絶対『ブリジット・ジョーンズの日記』なんて読まなさそうですが(笑)、僕のなかで奇しくも本作「今は限り」と『ブリジット・ジョーンズの日記』とが、「孤独死の果ての腐乱死体」というワードで繋がってしまいました。

女は、どれほどひどいあばずれでも、三〇代になると、それまでの奔放さをなくし、初めて感じた生存不安──誰にも看取られずに死に、三週間後になかば腐乱した状態で発見されるのでは、という不安──の痛みと格闘するようになる。(p.27、強調部は原文傍点、ヘレン・フィールディング/亀井よし子訳『ブリジット・ジョーンズの日記』(ソニーマガジン・2001年))

なので、この身体が突然うごかなくなった派手なシャツの男、この人はオネエにちがいありません(笑)

(追記)絲山秋子オフィシャルウェブサイトによると、2013/8/24の日記にて、この「今は限り」は18篇ほどの掌編からなる一冊の本のなかの一作品といういちづけのようです。それぞれ並行する18の世界が矛盾しながら一つの掌編小説集のなかに収まっているというのが完成形だそうなので、「今は限り」をその全体のなかの位置づけで読んでみるとまた印象がガラッと変わるのかもしれません。早く出来上がりを読みたいです。
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