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船越素子「ひべるにあの巣籠り」

出典:『文學界』2013年11月号
評価:★★★★☆

大手の出版社が発行している文芸雑誌のメインはもちろん小説なんだろうけれど、数としては少ないながら戯曲や詩も掲載されています。僕は戯曲には全く疎くって、観劇はもちろん楽しめるんだけれども、紙媒体に掲載された戯曲を「読む」ことにはいまだに慣れません。劇台本を読まされているようで、しばらく読み進めても要領をえずきまって途中で飽きてしまう。ほぼ会話だけのやりとりから情景を想像するちからが僕にないんでしょうね(笑)。戯曲とはちがって、詩は、読むセンスがないことは自認していますが、「なんとなくいいなあ」とか、「このフレーズは沁みるなあ」とか、茫洋とした感想ながら自分のなかに引っかかりは残るものもあります。その点、どこに自分をひっかけていいのかわからない戯曲を読むのとは大違い。

さて、いまさらながら気づいたんですが『文學界』の、巻頭小説が始まるよりも前の、扉ページといったらいいんでしょうか、ちゃんとした用語で名称があるんだろうけれど僕は知らないので仕方なくページの場所をこうして説明していますが、こうしたまどろっこしい説明を読むよりも、『文學界』をひらけば分かる、その最初の最初のページに、一篇の詩が掲載されています。

2013年11月号は船越素子「ひべるにあの巣籠り」。

これがよかったのでここで「よかったよー」とご紹介。ひべるにあ、というのは古代ローマ側からアイルランドのことをそう呼んだ名称だそうで、この詩もその「ひべるにあ」をテーマにして作られたものです。アイルランドやゲール語というと小説読みはジョイスのことに思い当たるはずで、この詩にもジョイスのことが隠喩としてうたわれているのかもしれませんが、その辺はよくわかりません(僕のジョイス本人についての知識はほとんどありません)。まあ、ジョイスの絵解きのように本作を矮小化してしまうより、詩なんだから、ここに書かれてあることばそのものを舌のうえで転がしたり、ビジュアルとして読んだり、各々好きな味わい方でリジョイスすればよろしいんじゃないかと思います。

分量的には全文引用できますが、著作権侵害になっちゃうのでそんなことはしません。第一聯だけ以下に引用して、つづきは『文學界』で、ということにいたしたいと思います。

 アイリッシュ海に面した丘陵地を意味するその町で
 わたしは毛繕いをする 庭先でゆっくり緩やかな指先で
 身体を思いっ切り伸ばし微かな潮の匂いを吸い込む
 幾層もの時の吐瀉物を抱いてなお廃墟も遺跡も
 血まみれの歴史も海に流れるほどつつましやかな呼吸をする
 古い港町なのだもの ユリシーズを読んだ?
 そんなふうに出会った そんなふうに言葉を 仕舞おうとした

詩の書き手にとって、もともと縦書きだったものを、こうして「引用」と称して横書きにされてしまうことや、著作権への配慮からとはいえ詩の全体から部分を断片として切り取ってしまわれることは許しがたい冒涜だと思います。それを承知でこんな──ちょっとことばは大げさですが──蛮挙にでたのは、この「ひべるにあの巣籠り」がよかったよ、ということを伝えたいがためです。

文芸誌は雑誌だからこそ小説以外も楽しめる、雑食の味わいがあるのですね。小説に限らず僕にとってはつまらない作品も掲載されることいく度とありますが、それでも自分が普段興味関心をそれほど払っていないジャンルの、すばらしい作品と出会える機会がえられるのは「なんでも乗せちゃう」雑誌のおかげに他なりません。この扉ページの詩はいつもスルーしていた(眼には入っていたのだろうけれど、読んではいなかった)ので、本棚にある『文學界』バックナンバーを繰っていく楽しみができました。
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