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大竹昭子「宙吊り」

出典:『新潮』2013年12月号
評価:★★☆☆☆

こういう毒にも薬にもならない作品は読んだだけで損した気分になりますね。べつにたいしたことが書いてあるわけじゃない、そういう作品でも文章が面白いとか、構成に工夫があるとか、僕にとってなんらかの読みどころがあれば「読んだ甲斐あったな」とお金の元がとれた気にもなれますが、こういうただ書いてみましたよ的書きちらしには反応のしようがありません。

本作は、写真家の女性が日本での仕事スケジュールをうまく調整をして、空きのできた数日間、ロンドンとパリへと出かけて行くというお話。作品タイトル「宙吊り」をサスペンスと解釈するなら、未決定状態のなかでなにかソワソワドキドキする落ち着かない演出があってもいいはずです。が別にそんなこともなく、ただ主人公が街をふらふら歩いたり、迷ったり、そのときどきに思いついたことをああかしらこうかしらとこねくり回したり。

予想が当たることを期待しつつも、それとは逆のことに肩入れする気持ちが浸透圧のように上昇して両者がせめぎあい、感情を宙吊りにするあいだがもっともスリリングで、結果がわかればもとの場所にすとんと着地する。(p.106)

作品のタイトルが文中にみられるとおり、「宙吊り」についてメタ的に言及した箇所です。素直にここをうけとれば、作品のなかで読者に、「この先こうなるに違いない」という期待をさせるような記述があって、読んでいくとその期待をうまく裏切る記述が出てくる……はずなんですが、別にそんなしかけにもなっていない(笑)。少なくとも僕は、作中に何度も登場する「宙吊り」のことばとはうらはらに、この作品のどこにも宙吊り感は感じられませんでしたし、ましてやスリリングなんて微塵も思いませんでした。

みんな背中を折って前屈みになり、ぼんやりと宙を見つめている様子が共通している。まだ見るものが残っているので帰る気にはなれないが、かといって立ち上がる元気もない。宙ぶらりんのまま、この気持ちを変化させてくれるものが、どこかから現れるのを待っている……。(p.111)

フォトギャラリーでわくわくする作品にもであえず、途中休憩している人たち。彼らも別にスリリングになっているわけじゃないですよね? うーん、結局なんだったんだろうこの作品。タイトルを僕みたいに深読みして、といって深読みというほど深読みではないですが、宙吊り=サスペンスと安易に解釈する読者の期待を逆手にとって、肩透かしを食わせて、「宙吊りっていうタイトルはそのままの意味だ。これを読んだ人はずっと期待の成就を先延べされて、最後にたどり着いてもカタルシスはえられないのだ」という書き手の目論見があったのかもしれません。そうであるならば成功なんでしょうけど、ただ書き手のこういう目論見が仮にあったとしてかつ成功したとして、残された読者はポカーンとなっちゃうだけじゃなかろうか。「最後まで読んでもなんにもなかったじゃん!」

まあ、こういう作品ももちろんあってもいいと思いますが、二度と読みたいとは思わないです。ばかばかしいつきあってらんない。

ちなみに、作品の本筋とは全く関係ありませんが、主人公がイギリスの地下鉄を利用する場面で警告アナウンスを耳にします。

「mind your step(足元注意)」というアナウンスも、「watch your step」という米語に慣れていた耳には”目よりも心を使いなさい”という警告に聞こえた。(p.105)

とあります。イギリス英語、アメリカ英語の区別以前にmindが分かってない(笑)。日本語の英語学習者がよく誤解しているmindですが、これは「心」なんていうあいまいなものとはほとんど関係なくて、知性をつかさどる「頭」とか「思考」と縁が深いことばです。感情なんかと結び付けられがちな「心」とは正反対の機能ですよ。ためしにmindで画像検索してみてください、脳の画像がたくさんでてきます。mind とかmentalと関係のある身体の部位を指さしてくださいとたずねて、胸とか心臓のあたりを指さすのは日本人だけじゃないでしょうか。正解はもちろん頭です。したがってこの引用部はアメリカ英語でもなくイギリス英語でもなく受験英語、それも頓珍漢な理解にもとづいた受験英語です。いったいいつ頃どこで生まれたんでしょうね、この日本的誤解は。
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