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稲葉真弓「ふくろうたち」

出典:『群像』2013年12月号
評価:★☆☆☆☆

『群像』12月号の特集は目次によれば

アンソロジー ホームズ、ポアロ、マーロウ、半七……エトセトラ。名探偵への超・偏愛(オマージュ)小説集(目次ページより、カッコ内は原文ルビ)

ということで、探偵小説のオマージュ短編特集。表紙も鍵穴から部屋の中をのぞいた風になっています。

9月号からは『群像』は図書館で読むようになったのでとくに雑誌の方向性については何もいいません(笑)。自分の身銭を切ればこそ屑みたいな作品やしょうもない特集が掲載されれば腹も立とうもの、「どうか昔の群像カムバック!」と絶叫していたものですが、今や税金で購入されたおこぼれにあずかって読ませていただくようになっていますから『群像』についてはどうでもよくなりました。編集している人、書いている人が楽しければいいんじゃないかな。

で、いつも読んでいる人のは後廻しにして今日は初めて読んだ人の作品、稲葉真弓の「ふくろうたち」です。探偵小説や推理小説はもう小学校のときに一通り読んで以来、腰を入れて読んでいないのでこの作品がどんな先行作品への「超・偏愛(オマージュ)」なのかわかりません。なので他の小説との影響関係うんぬんは僕には読み取れないまま一つのたんなる短編として読み進めました。

ふつう探偵小説というと、なにか事件がおこって、探偵がその事件の真相を暴くものでしょう。合理的な推論に重点をおくならば推理小説とよばれるでしょうし、探偵の活劇が見せ場ならハードボイルドになろうし。図式化すれば、「謎の提示」→「解決にいたるプロセス」→「解決」が作品の骨になるはずで、僕もその図式を念頭に本作を読んでいったんですが、本作はこういう図式のつくりにはなっておらず戸惑いばかりがのこりました。

謎はあります。サーフショップを経営する男のもとに、「誰かが家の中を覗いているようだから犯人を突き止めてほしい」と三十代後半の女性から依頼がある。その謎の探求もあります。そこで相談をうけたその男の友人である渡という男が夜な夜な依頼主のやもめ女性の家をとりまく森に潜んで監視するというもの。ここでは、「覗きをしている者がいるのかいないのか、いるとすればどんな人間あるいは動物、超自然的な存在なのか」という問いが謎として提出されている。この謎になんらかの解決が与えられるのかと思って読んでいったんですが全く収穫がありませんでした。というより謎の答えに迫るどころか遠ざかるようにして、サーフショップ経営の男と渡とのなれそめが語られたり、サーフショップの経営状況が説明されたり、渡の家庭の状況や依頼主の女と懇意になる妄想が展開されたりします(笑)。余計な情報満載です。それでもその余計な文章自体が詩的であったりうまい描写で書かれてあれば興味を惹かれたかもしれませんが、その文章もあまりうまくありません。余計な情報の後に余計な情報が積み重なって読み進む歩をすすめるたびに足をとられるばかりでした。

例えば次の文章は、渡視点でサーフショップ経営の男である寛志について描写した箇所。

年中ハワイアン音楽の流れる店内には原色があふれ、ここだけは冬でも夏のにおいや気配が流れている。それは寛志自身の肉体からもかもしだされていた。肌は太陽の光を吸って褐色に光り、引き締った身体全体が動物的な強靭さとなめらかさを誇っている。まるで夏そのものが目の前に立っているようだった。いまにも沈没しそうな海べりの町。そこに寛志が新しい事業をたちあげようとしている噂も聞いた。(p.23)

寛志の外貌は謎の解決には全く関係ありません。夏っぽさも関係なければ新しい事業も関係ない。引き締った肉体が動物的な筋力を発揮することもない。探偵小説ってこういう関係ない要素をなるべくそぎ落としてシンプルにストーリー展開し、そのスピード感で読者の興味をひきつけるジャンルだと思うんですがべつにそんなことに頓着してないこの書き手の悠長さ、呑気さが純文学ならではのおっとりしたところを証していて笑えます。男(渡)が同年代の男(寛志)の体をこれだけ丁寧に、あたかも視線で舐めるように描写するのは、視線の主=渡がゲイなんじゃないかとも深読みしてもみましたが、もちろん渡の性癖がどうだろうと謎の解決には一切関係ありません。それにしても「夏そのものが目の前にた立っているようだ」って(笑)。そんな風に友人を見る目って普通の人にはない感覚です。

あるいは時間の展開のさせ方も徹底して吞気です。

それが四日前の会話(寛志から監視の依頼をうけた会話──引用者注)だった。翌日の夜、教わった場所に行ってみた。(p.24)

暇な渡なんだから、依頼をうけたらその日に行動するのが当たり前に思えるし話の展開もそのほうがスピーディーです。翌日出かけるなんて悠長すぎる。翌日の夜になるまでに謎の解決にとってヒントになるような出来事が起こるわけでもありません。一日がかりで何か特別な準備をするわけでもなし。いたってスピード感がない探偵小説。

監視を続ける渡は日々収穫なく、そして小説はあいかわらず謎の解決には全く関係ない描写と説明で貴重な誌面を浪費したあげく作品のほぼ終盤に近づいてやっと、ここにきてやっと、森に潜む渡の近くで何者かの気配がします。小枝を踏むピキッという音だけでなく、タバコのにおいまでただよってきて、何かがきっといると読者が息をのんだところで

彼は目を閉じる。(p.32)

渡よ、それはないだろう。結局、音とにおいの主の正体に目を閉じた渡のせいで、謎は解決されずじまい。読者は置き去りのうちに作品は終わります(笑)。読者の僕も、アチャーと目を閉じ、そして本をそっと閉じました。編集者がこれでOKを出したのだし、執筆者もこれが商業誌媒体で発表するに足るとの判断で脱稿したはずだから、これはこれでこういう感覚も世の中にあるんでしょう。作り手たちが楽しければいいんだと思います。僕にはどこが読みどころかわからない、想像を絶するセンスでこの世に生まれた、脱線続きで失速してゆく、できの悪い習作探偵小説にしか思えませんが。この作品から探偵小説への偏愛を読み取れる読者はどれくらいいるのでしょうか。

(追記)先行作品がなにかわかると実はものすごく楽しめるという仕掛けになってるんですかね。もしそうなら僕がこの作品の読者としてふさわしくないだけであって、探偵小説好きの読み手にとっては元の作品の痕跡を絵解きみたいにしてそこここに発見し、その偏愛が味えるすばらしい作品になっているのかもしれませんね。フォローをいま書きながらも「ほんとかよ」と内心の突っ込みが途切れませんが(笑)
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