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墨谷渉「今宵ダンスとともに」

出典:『群像』2011年11月号
評価:★★☆☆☆

年末で本の整理なんかもしているので売るか押入れの奥にしまうかする前に読み残しているものにはざっと目を通しておこうと2011年の『群像』から。以下の作品紹介は『群像』サイトより。

住設機器メーカーに勤める庄司くんは、工場の製造ラインのことばかり考えている。交際している中野理美さんとの結婚を考えていたが、彼女はマサという男と密会しているらしい。庄司くんはどうしても中野さんの自分に対する「本当の評価」が知りたくなり、ある行動に出るのだが――。フェティシズムや暴力、快楽を書き続けてきた墨谷渉の新境地!

読み終えて自分であらすじまとめをしようとしていたのですがうまくまとまりませんでした。上の内容紹介だとじつにうまくまとまっていますね(笑)

人間をとらえる観点はさまざまあります。ある人Aとある人Bとがいれば、その人がどういう役割を期待されているかによって(たとえば将来の配偶者、工場の現場主任、浮気相手など)さまざまの観点から比較されることになります。Aさんの学歴はどうで、収入はどうで、見た目はどうで、性格はどうで、それにたいしてBさんは……、比較すればAさんの勝ち、という感じ。これはあたりまえといえばあたりまえですね。今の社会では社会生活をおくる以上特定の観点=指標から評価されるのはさけられず、人間存在がさまざまの指標に還元されてしまって、その見方を推し進めるともうその指標「だけ」の存在として自分自身をとらえてしまうような認識の顛倒が起こってしまいがちです。そういうニヒリズムにたいし自分の身を実験台にした男のお話として読みました。

「評価」に漠然とした疑問を抱く本作の主人公庄司くんの行動がなかなかスリリングであり、ばかばかしくもあります。

それに、もうすぐボーナスです。ボーナス額は、基本給ベースに査定期間の評価によっても左右されます。仕入れ個数、金額、コストダウン率、不良発生率ppm、勤務態度、上司コメントなど。仕事面だけでもこれだけの細かい基準に基づいてある程度理論的に評価されるのに、と庄司君は思います。男性としての評価はさっぱりはっきりしない。思いつくまま、庄司くんはその場合の項目を書きだしてみます。顔、体型、身長、収入、将来性、性格、優しさ、会話力、センス、学歴、IQ、資格、免許、技術、健康状態、体力、生殖能力、運動神経、包容力、顔……は、正直負けているかもしれない、しかしもちろん人によってタイプというものがある。体型も、標準だが男は細身、そこにも好き嫌いは入る、また筋肉質かどうかは確かめていないし。身長は負けている、しかしほぼ標準内ではある、収入はわからない、将来性は負けてはないかな、いいお勝負じゃないか。性格、優しさはわからないがやや自信がないかも……しかしいくらこんなことを考えていても埒が明かない、と庄司くんは思いました。心の部分やタイプ、好き嫌いは数値化できないし感覚的なものが入ると判断が難しい。しかし、それでもできる限り把握しなければならない、と庄司くんは思いなおします。(pp.177-8)

書きだすだけでもうんざりするくらいありますね。

評価にオブセスされている庄司くんは、恋人の浮気相手と同じ車を買って、恋人の前に現れ、恋人に捨てられることになります。この点を庄司くんの立場からいえば、恋人はさまざまな指標を比較考量のうえで浮気相手を選んだのを確認したことになります。ここに至るまでの庄司くんの身振りからは、人をなんらかの指標によって評価することに、疑問とかすかな反感があるように思えます。庄司くんが抱くような感慨をだれしも多かれ少なかれもっていることと思います。だからいってみればこれはまあ、いまさら小説で読まされるまでもない当たり前のことなんですよね。

ここを深く掘り下げるのであれば、庄司くんと逆の立場の人=評価する側の人を、丹念に描くべきではなかったか。100人だか1000人だかを評価する人事の人の立場からの見え方や、中野さんが庄司くんに物足りなさを感じるようになったいきさつなど。基本的には庄司くん視点なので、評価で成り立つ世の中にたいする「もやもや」を抱えたまま、読者もそのもやもやが一向に解決しない(笑)。小説として目のつけどころはキャッチーなんですが、主人公の知性と認識の限界がそのまま小説の限界になってしまってますね。また、庄司くんが終始抱く「ライン」へのこだわりはこじつけ以上のものを感じませんでしたし、作品タイトルは作品の細部の小ネタを説明するためだけにつかってしまうのはもったいないです。

物語ラストで、恋人に捨てられそれまでの仕事を投げ捨てて、下請け工場のラインの仕事につくというのも安直に感じました。その仕事もやはり評価はついてまわるものでしょうしね。完全に評価から逃れるのなら、もう他人との関係を断絶して行方不明になって自給自足するしかないんじゃないでしょうか(ホームレスだって古参と新入りとの序列がありますしね)。

最後にフォローしておけば細部での面白さは多々ありました。

ワタリガニのクリームスパゲティを食べる中野さんを、庄司くんは観察します。今庄司くんとワタリガニを交互に見ている中野さんの目には、昨夜マサ(浮気相手)の顔や身体が映っていて、器用にワタリガニを剝く指は男の身体を触り、その身を食べる口はどうしていたのか。(p.190、カッコ内は引用者注)

作品のクライマックスともいうべき、庄司くんと中野さんと浮気相手とが同席する合コンのシーンも緊張感がありました。ですので個々の場面では面白く読んだところもあったものの、全体としてみてみれば、けっこう当たり前のことばかり、深さがたりない、オチが安直などで、いまいちという評価に落ち着きました。社会主義思想家の本や、労働社会学、組織社会学系の論文、あるいは労働者のルポルタージュ、インタビュー、しんぶん赤旗などを読むほうが僕にはよほどスリリングです。
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