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深堀骨「逆毛のトメ」

出典:『群像』2014年2月号
評価:★★★★☆

 陋巷の天才人形師で天才家具職人で天才発明王だったゼペット爺さん(日本人)は天才呑んだくれでもあったが、天才故にその腕のよさを過信するキライがあり、それに呑んだくれ特有のアルコホリックな誇大妄想も手伝って、美しい人形や素晴らしい家具に加え、それに倍する数多の理解不能な道具や器械やら装置やらを拵えてきた。(p.68、括弧内は原文)

いきなり無手勝流の無茶苦茶な出だしで噴き出しました。細かいことをいえば、「陋巷」いうなら「指物師」くらいつかえよとか、「理解不能な」と説明ことばで言い切るのではなくてどのように理解不能なのか描写してよと突っ込みたくもなったんですが、そういう些末な茶々を入れるのが馬鹿馬鹿しくなる勢いで話が進みます(笑)。根っこにあるのはゼペットという人名からピノキオ物語、あるいはもっとひろくとって人形制作寓話なんでしょうね。

無茶なことばづかいもそれだけだとへたくそな小説にありがちな出来そこないです。この作品にはそのことばづかいに見合っためちゃくちゃなアイディアがある。次の引用は、ゼペット爺さん(日本人)が人形作りの仕上げにかかる場面です。

(前略──引用者)完成というところで、「足りない」と思った、何かが足りない、物足りない。だから足りない「物」を付け足した。せっかく着せたドレスをまた脱がすと、乳房どころか乳首すらない幼児体型の軀から生えた二本の短くふっくらした脚の間に、そこだけは矢鱈と精巧なヴァギナを拵えてしまったのだ。正に天才か狂人の神業である。(p.69)

中学生並みの馬鹿馬鹿しい発想力です(褒めことば)。と、並みの書き手だとここで満足してしまうのかもしれません。この深堀骨のすごいところは、さらに先を用意しているところ。

膣内には、人形の背丈よりやや短い程には長い螺旋状の鋭い鉄の針を仕込んだ。そして愛らしい顔と首にも要らぬ小細工を施した。碧い目と金髪の可愛い和製仏蘭西人形の筈が、首を回すと、人形浄瑠璃のガブみたように邪鬼の形相に転じ、同時に膣から螺旋状の針が飛び出す、素敵なからくり仕掛けなのだった。(p.69)

僕はここに、現代によみがえった山田風太郎先生を見ました。忍法羅生門でしたか、たしかくノ一が色仕掛けで敵の男忍者にわざと挿入を許しておいて、そこで相手が油断したところを見計らって子宮の中に潜んでいた赤子が男根を掴んで逃がさないというやつ(うろ覚え)。山風忍法にも勝るとも劣らないくだらなくも読者を驚かす発想が本作では人形からくりに具現しています。

性器やその周囲など普段目に触れない部分にとんでもない仕掛けを組み込むとそれだけでなにか面白いと思ってしまうのは僕だけでしょうか。身体部位の工夫でありながら映像作品では倫理的に表現に制約がかかりそうなので、小説のほうがかえって奔放な奇想天外な表現が可能でしょうね。映像じゃないぶんグロテスクすぎることもないし。

さて、螺旋状の隠し針を内蔵して生を受けた人形は「逆毛のトメ」と名付けられワインのコルク抜きとして活用されます。が、本人(?)はその役割には全く不満な様子。

トメは初めて気づいた、「私は踊りたいんだ」ということに。私は人形でもないし、況してや栓抜きでもない。踊ったことはないけれど、「私は踊り子なんだ」と胸を張りたい。「だって気分はもう踊り子なんだもん!」、そう叫びたかった。(p.74)

ここで僕は爆笑……、いや、図書館で読んでたので爆発させるわけにはいかず、笑いの不発弾を喉に孕んだまま飲み下しました。一見すると、女の子が自分の夢に目覚めてその実現に向けて決意する場面。しかしそれは迂闊な読みです。この引用部分をちゃんと、書いてある通りに読めば──書き手は計算してやってるのか無茶苦茶書いたらこうなったのか文字テクストだけでは判別つきませんが──、逆毛のトメは決意を言葉にしていなければ、胸を張ってもいないし、踊りもしてない、叫んでもいないんですよね(笑)。そう「したい」だけでアクションは一切ありません。第三者から見れば人形が、まあ座っているか転がっているかだけで何の動きもない静止画みたいな場面です。しかし逆毛のトメ視点で語られているこの場面を読んでいる読者は、たしかに彼女の感動を共有している。だけど外目には動きがない(笑)。軽く読み流してはもったいないところでした。

この後も、もう無手勝流の語りが怒涛のように話を転がしていきますがそれは実際に読んでいただくのが一番です。

……勃ちひろし……(p.76)

これが個人的にはツボでした。すべてはとてもじゃないけれど紹介できませんので興味持たれた方はぜひご一読を!短編という分量にちょうどいい作品でした。しりあがり寿先生による漫画化希望。

(追記)深堀骨作品は早川から短編集が出ているようですがamazonでは手に入らないんですね。キンドルでいいから読めるようにならないものでしょうか。短編集『アマチャ・ズルチャ 柴刈天神前風土記 (ハヤカワSFシリーズ・Jコレクション)』の内容紹介しているブログがありました。「バフ熱」、読みたいので『ミステリマガジン』だか『SFマガジン』だかのバックナンバーあたってみることにします。
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