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坂口恭平「蠅」

出典:『新潮』2014年2月号
評価:★★★★☆

芸が細かいというか、細部の表現や仕掛けを楽しめる作品でした。短編の分量でこれだけいろいろやろうとするととっ散らかってしまいかねないところを、うまくまとめていると思います。気に入ったフレーズをいくつか。

ベルリンに今も燻っている火の欠片が鼠のように喉に入り込んできた。(p.144)

脱走を目論む囚人は、監獄の緻密に計算された細部を次第に知っていくにつれ、脱走を諦め、ついには外の世界があるという事実すらを頭の中から除去してしまう。(p.146)

太陽が無人の監視塔に見える。周囲をちらりと眺めると、多くの囚人がまるで観光客のように何気なく歩いている。(p.147)

太陽を監視塔に見立てる表現の一連の文がかもすイロニーにはしびれました。なるほどこういう書き方があるんだなあ、と。第二文を常識的に「多くの観光客がまるで囚人のように何気なく歩いている」とやってしまっては台無しですよね。

ドイツのベルリンをふらふら歩く「僕」の見たり聞いたりしたものが、僕のレンズを通して、つまり上のようなピリッとしている表現で、描かれます。また折に触れ読者を安心させない書き方も僕好みでした。次の引用は、躁鬱病の「僕」が現地で出会った女の子との会話の中でその彼氏も躁鬱病だとわかって、彼氏にどう対したらいいかアドヴァイスを与える会話。

「あなたがしたいと思ったときに、何の前触れもなくスカートの中に手を入れてもいいし、後ろから突然襲ってもいいから。疲れているから今日は無理、とか言わないから、好きなときにセックスを好きなだけしようって、言ってくれ」
「それはあなたのお願いなの?」
「いや、そうではない。これはポルノ小説ではなく、医学書だよ」
「でも、それって結局、紙にぶつけてはいるけど、出会ったばかりの女の人に性的な感情を喚起させるために「セックス」や「舐める」や「看護婦」などの言葉を、書き、話すことで、目の前のマリアを口説いているだけなんじゃないの」
「舐めるとは言ってない」
 血流の具合によって微妙に揺れ始めてきた目の前の画像のズレを調整した。(p.153)

メタな書き方で意図的に眩暈を起こさせる方法は、キマらないとダサさだけが残って無残です。方法のための方法、書き手がそう書きたい、ってだけのやつで筒井康隆がその典型例です。その点本作では、いずれもうまく作品にはまっていました。語り手が躁鬱病という設定によって、こういうメタな見方語り方をしてもわざとらしくないようになっていますよね。小説には原初的にメタへの意識がそなわっているはずで、それをあえてメタのためのメタという風に書いてしまってはダサい、芋臭いとしか感じられませんが、本作では内容と形式がうまくはまっていて作品としてきちんと成立しています。

ほかにもいろいろ仕掛けがあって最後の一行まで読者を飽きさせないサービス精神旺盛な短編作品でした。こういう短編は楽しいですね。
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