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村田沙耶香「トリプル」

出典:『群像』2014年2月号
評価:★★★☆☆

注意:以下にはあからさまに性的な表現があります。苦手あるいは不快を感じる方はここで読むのをストップしてね。


作品冒頭恋人とので待ち合わせ場所に赴くため化粧をしている高校生の「私」に母親がこんな言葉をかけます。

「デートって……それはいいけれど。ちゃんとカップルでデートするんでしょうね?」
 私はグロスを指で伸ばしながら笑った。
「当たり前じゃない」
「そうよね、真弓ちゃんに限ってそんなこと……でもほら、今、流行っているっていうじゃない」(p.40)

と母親は何かを心配している様子。この「今、流行っているっていうじゃない」という言い方はうまいですね。流行っているものをわざと省いて、読者に「何が流行ってるの?」と疑問を抱かせ作品世界に引き込む言い方になっています。と同時に、母親の心理的な規制によってはっきりそれとは口にしづらいような何物か、後ろ暗い物が話題になっているとも分かるようになっている。

ここで母親が心配しているのは、「トリプル」と呼ばれる男女間の人間関係。これは僕たちが暮らす今の日本では異性間(たまに同性間)の関係、二人一組でカップルと呼ばれるような、まあいってみれば「ふつうの」関係ではなく、もう一人加わって三人組の、といってもトリプル関係が出来上がるのは二人組に一人が声をかけて合意したところではじめて成立する関係だから、一足す二の末に生まれる三人一組の関係のことを指しています。これまた僕たちの手持ちの言葉でいえば3Pといってしまいたくなりますが、それとも大いにずれていてこの作品独自の人間関係となっています。ちなみにテクストの表記にしたがって以降も「トリプル」という言葉を踏襲しますが、二人一組=カップルにたいして三人一組を示す言葉は、トライアッドTriadです。ダブルに対する言葉がトリプルですね。

どの辺が独特かというと特に身体が接触する場面です。

三人でキスをするのは、大人が思うよりずっと簡単だ。百二十度ずつ角度を分け合って顔を近づけると、驚くくらいしっくりと三つの唇が合わさる。(p.45)

なにか幾何学的な美しさがありますね。僕がイメージしたのはトリプルの三人がキスし合うために顔を近づけていく動きを、俯瞰のカメラで真上から映している映像でした。一対一でキスしてを三回繰り返すのではなくて一度にキスしてしまうんですね。また、キスがこんな感じなのでその先のセックスもトリプル独特の様式をとります。それは三人のうち一人を「マウス」として指名し、「マウス」になった一人が体中の穴という穴をほかのふたりに愛撫され、舌や指を挿入されるというもの。

マウス役の子だけが服を脱いで、他の二人は着衣のままだ。そして、マウス役の子は、体中の穴で、他の二人のありとあらゆるものを受けとめる「口」になる。(p.48)

性差を超えたエロティックなものに一貫して関心のある書き手らしい表現です。もっともこの「穴があったら何か入れたい」という欲望は、実際に肛門性交、口腔性交、異物挿入、耳の中に舌を入れたり、口の中に指を突っ込んだりと性交時にさまざまな形で行われる行為のみならず、もっとマイルドな形式でいえば、教科書の数字の「0」とか「6」とか「8」の空白を鉛筆で塗りつぶしたり、幼児が塗り絵を楽しんだりといった日常的にみられるごくあたりまえのふるまいにも具現していますね。

作中ではこのトリプルの性交は非常に穏やかなものとして、マウス役の者にとってはさながら羊水の中で眠る胎児の快感を味わうものとして描かれています。この点も僕らがお手軽にみられるネット動画の無修正3Pものとはだいぶ異なっている作品世界独自の設定です。かける時間もものすごく長く「5時間(p.50)」で、マウス役も男の場合にはかなりマイルドに射精する(笑)。次の引用は、圭太というスポーツマンタイプの男子がマウス役です。

圭太の穴の中に私たちの体液が流れ込んでいく。「うっ」という声がして、いつの間にか勃起していた圭太のペニスからトロトロと白い液体が流れ出た。(p.49)

30歳過ぎているならまだしも高校生男子なら「トロトロ」はないはずだと現実なら言いたいところですが、この「トロトロ」の射精もふくめて、トリプルの性交の穏やかさが作品内の設定として表現されているんでしょうね。僕自身は3Pには全く興味ないしもちろん経験もないですが、もしもそんな気持ちいいもんが現実にあるんだったらぜひ挑戦してみたくなりますね。お相手はアマちゃんと檀蜜さんあたりで5時間コースで。

閑話休題。このトリプルの関係は若い世代に流行しているものであって、先行世代、作中でいえば「私」の母親世代にはかなり強い抵抗感があるようです。上で描かれているようにトリプルは、3Pのようなもの、あるいは体の欲望を単に満たすためだけのものとはずいぶん異なる付き合い方なのですが、先行世代はどうしても「淫らな」関係としてトリプルを頭っから否定してかかる。年齢が高くなるほど性的な関係について保守的な態度をとるというのは僕たちの生活している世界でも同じですね。この、娘がトリプルとして男二人と付き合っていることを知った母は言葉を尽くして罵倒します。

「この淫乱女! あれほど言ったのに、よりにもよって男の子二人となんて! 汚らわしい!」(p.51)

娘に「淫乱女!」はないだろうと思いますが、母親はこの後も取り乱しきって娘に「純情ぶるんじゃないわよ!」「こんな売女に育つなら、生むんじゃなかった!」「この男狂い!」「色情狂!」と、罵倒の機関銃を掃射します(笑)。この部分を、書いている方は結構楽しくご機嫌で書いたんじゃないかなと推測します。僕には、もちろんこれはこれで面白さはあるものの、悪乗りのほうが勝っていて白けも同時に感じました。白けないようにするためにはもうちょっと長い作品で母親の人間もじっくり描いてこの豹変ぶりに説得力を持たせることが必要だったかもしれません。このままだと単なる性的に保守的な役割を割り振られた母親という名前の木偶人形です。人形の後ろで操り糸を一人楽しげに操作している人形遣いの、本人はばれてないと思い込んでいるらしい姿が観客には丸見えだったという感じ。それに、これらは母親が娘を叱る言葉というより、浮気した女にたいして甲斐性のない男が腹立ち紛れに投げつける言葉ではないか。『痴人の愛』のジョージをなんとなく思い出しました。

というわけで全編、性に関する言葉に満ち溢れている短編でした。それも、今ではネットさえあればだれでもアクセスできる扇情的なものとは違った、もうすこし深い部分から捉えようとする性的フィクションです。トリプルという着想も、僕たちの暮らす世界でいえば性的マイノリティーのそれに近いものとして類推できるし、一定の性交……、成功を収めていると思います。本作で新しい三人の性的な関係を描いた村田沙耶香。次回作では新しい親子姦あたりでしょうか(妄想)。ぜひとも、AVや同人雑誌で既に表現されてしまっているありふれた性的表象を圧倒してほしいと、いまから期待せずにはいられません。
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