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中上紀「赤いサリー」

出典:『すばる』2014年3月号
評価:★★☆☆☆

国際結婚もの、と本作をひとことでまとめてしまうのは僕の語彙貧困と読み取り能力のなさを証しているとしても、それ以上の感想をこの作品に抱けなかったことは事実です。ネパール人男性と結婚した日本人女性が子供をもうけて日本で暮らすなか、子育てや家のことに非協力的な夫に不満たらふく。その一方義弟(ネパール人)にむしろ恋愛感情のようなものを抱きネパールの地で、日本での鬱々とした日常から解き放たれて一人の女に戻る瞬間を味わうというようなお話です。夫に不満を抱いている女性が読むと「そうそうこれこれ!」って我が意を得たりの共感を味わえる作品なんでしょうか。僕には別に意外性もなにもなく「まあ語り手がそういうんだからこんなもんだろうな」くらいにしか感じませんでした。

語り手の女性がネパール文化や当地のひとたちと接して味わう感情には、ネパールトリビアを知る楽しみはありました。読み手の僕としては、情報番組で外国の人の暮らしに「へえー」と感心するような感じです。別に小説として読まなくてもいいような情報。

 ネパールでは祝い事の際に縁起の良い金の装飾品を身に着けると聞いていたので、日本から十八金の繊細な鎖のハートのペンダントを持参していた。しかしそれは赤のサリーには合わないとあっさり却下された。代わりにバウズーが戸棚の引き出しから出してきたのは、毒々しいほどの黄金色に輝く太いチェーンのダイヤネックレスと、同じく毒々しい黄金色を土台にしたダイアピアスのセットだった。あまりの派手さに面喰っていると、金も宝石も偽物だから遠慮するなと言う。(p.71)

ふーん(笑)。ほかにもネパールの政情の不安定さなんかも紹介されておりこれもお昼の情報番組的なものにとどまっていて特に好奇心を刺激されるものでもありません。大使館情報とウィキペディアと当地を旅行した人のブログを見れば事足りるようなものであって、別に小説じゃなくてもかまいません。

本作のタイトルにある「赤いサリー」というのはサリーという女性名のことではなくて、民族衣装のあの布のことです。義弟の結婚式に列席するときに女性衆が身に着ける布の色は赤と決まっているとのこと。子育てやつれして気ぶっせいな日本の日常を灰色とするなら、つかの間ネパールに行って親族のハレの日を象徴するのがこの赤です。語り手の女性が赤いサリーを身に纏った自分の姿を後日、映像で見てみると、

 一瞬、誰だか判別できなかった。化粧をした女がそこには居た。ネパールの正装をし、結婚式のための装飾が施された玄関に立っている。紛れもない自分であるが、同時に知らない女であった。女は愁いを帯びた遠い目をし、その日の主役がまるで自分であるかのように赤いサリーを纏っている。(p.65)

上の部分を書き写しながら改めて気づいたんですが、語り手は、子育ての苦役にたえる自分が日常生活から疎外されている=脇役であると感じているんですね。だからサリーを纏った自分の姿のなかに充実を、ひとりの主役として別人になった存在を見いだしている。語り手にとって主役になるということは、夫の所有物になってこき使われる妻あるいは母としての存在とは真逆の、一人の「女」になること、性的に特定の男性には結びつけられていない状態の、何かをその先に選び取れる可能性に開かれた一個の女性となることに他なりません。これも、まああるあるなんだよなあ。

ネパールの美容室で髪を整えてもらっているときはこんな感じ。

それでも、美容室へ行って良かったと、思う。なぜなら、髪を洗ってもらっている時、誰のことも、何事も考えず、しみついた汚れや、傷ついた外側の部分をこそぎ落として、まっさらな存在になりたい、それだけを思うことができた。(p.90)

リゾート地のエステでリフレッシュ!というのと同じです。日本で夫との仲が悪いまま夫婦生活をしている人にとって、美容室で何も考えないで綺麗になれることが快につながるのはよく分かるものの、これも当たり前のあるあるですよね。

作品のクライマックスでは、国籍や言葉に関係なく披露宴の場でサリーの赤はじめ様々の色がまじりあう祝祭的なシーンが描かれます。これも教科書通りすぎます。宴の場というのはそういう場だろう、日常の規範が緩んで、集った人々がみんなでわっと盛り上がって親族や共同体の絆を確認しあう場、そしてさまざまの社会圏が交錯する場だろう、と。あたりまえのことを当たり前に書いていて何が面白いのか僕には理解不能でした。

こんないかにも作り物つくりものしたクライマックスよりも、この作品中唯一僕がいいなあと思えたのは次の場面。夫のネパールの実家(義理の兄弟夫婦もくらしている)に滞在している語り手が、夜更けになって帰宅する場面です。

家に帰ると家族のほとんどは就寝していた。寝室に行く前、マスター・ベッドルームのほうにちらと目をやる。固く閉じられたドアの向こうから、押し殺した男女の声が漏れ聞こえてこないかと耳を澄ませた。(p.91)

このくだりにだけ、僕は「リアル!!」とびっくりマークふたつ付きの書き込みをしています。他はどれもありきたりすぎて退屈な作品でした。
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