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藤沢周「寿」

出典:『文學界』2014年3月号
評価:★★☆☆☆

いきおい名前の尻尾に「平(へい)」をつけたくなる藤沢周の、僕のなかでのベストはなんといっても「ブエノスアイレス午前零時」でそれ以外はどれも面白くなかったのでこれまであまり意識して読んでいませんでした。そして本作「寿」も、やっぱ面白くない。横浜の産業貿易センタービル二階にパスポートの切替申請にきた男が、証明写真に写った自分の顔に落胆し、そのまま中華街の人混みに歩いていくという話。文章は意図的に読みにくくしているのかささっと読める書き方ではないものの、これも僕には「超遅れてきた新感覚派」とでもいおうか、今更感がありました。語り手(書き手)はオシャレしているつもりなんだろうけれど、それ一昨年の冬のコレクションの服ですよとそっと耳打ちしたくなる二周遅れの文体。一般人の僕は平気で二年前の服を着ますけどプロの作家がこういうの書いてもなあと思うのです。うーん、僕が読めてないだけなんでしょうか(3回読み返しました)。

繁華街特有の人で混雑する雰囲気をこの文体でやってみたのかもしれないですね。ごったがえす歩行者天国に入っていくと自分の意志で歩くというより、周りの人の流れに乗って歩かされるあの感じ。文章の読みを歩行にたとえるなら、先に進みたいのに引っかかって引っかかって進めない、読みの歩みを遅延させる文章です。だけど面白くない(笑)。

 天津甘栗を焼く黒い小石の波が執拗にうねっているかと思うと、小さく薄い器に入れられた烏龍茶が盆にいくつものって、観光客の肘やダウンジャケットに触れて零れている。中華肉まんの奔放なほどの甘い湯気がこちらの顔を乱暴に撫で、チープな金と赤の提灯が乱れ揺れる。(p.151)

三国志新館、重慶茶樓、重慶飯店、華正樓……。ラードとニンニクのにおいがあふれ、大振りのシューマイ用の蒸籠が大笑いして湯気を吐く。(p.151)


中華街を歩くこの男はひたすら自分の周りを描写していきます。看板、露天、店の前の人たち、音、におい。様々なものがごった返しているのは分かるのだけど、適度にリーダブルなので、言葉をいろいろいじっているにしても物足りなさが残りました。かといってほとんどの人が読めないようなダダ詩みたいな仕方で中華街の描写をしてしまうとそれはそれで読者は文句言いそうだし(「もっとわかりやすくかけ!」)、バランスのとり方が難しいですね。さらにいえば書き手の側だけでなく読み手の読書量とか好みにもかなり左右されるところであるはずで、となればこの作品に描かれた中華街の混雑具合と相性ピッタリの、「情景がありありと目裏に浮かぶようだ!」といって楽しみながら読み進める人もいるはずです、とフォローしておきます。僕にはつまらんかった。

つまらなさの一因として、目に見えたものをそのまま並列して書くだけの個所がちょこちょこ出てきたこともあります。

大新園、三和楼、聚英、清風楼……。(p.152)

白い矩形の看板灯が並ぶ。縦だったり、横だったりして、高砂荘、暁荘、六国荘、桜会館……。(p.155)

大吉、琴、初音、スナックてっぺん、めぐみ、福娘、味自慢。日本酒の広告入り看板もある。(p.155)

本作を片手に横浜中華街を歩いていけば、書かれてある順に店の看板が目につくのかもしれません。一度も横浜中華街に行ったこともなくいく予定もない僕にとって、この羅列は単なる文字でしかなく、何のイメージも、感情も喚起させません。中華街大好きな人くらいじゃないかなあ、このくだり楽しいの。それにどうせ中華街を歩くにしても、無味乾燥な「寿」よりは、観光案内本を持っていったほうが何十倍も楽しいはずですし。いったい何がしたかったんでしょうね、とにかく僕は読めませんでした(笑)。

男は最後に大衆居酒屋に入り酒と肴をやりはじめます。本作で唯一よかったのは、男が温やっこを食べる場面。

電子レンジでチンして、かつおぶしだけのせた温やっこ。だが、七味唐辛子を振って、備え付けのプラスチックの箸で一口やったら、熱いッ、と思っているうちに喉を焼くように滑って、すきっ腹に沁みるような美味さだった。(p.156)

ここを読んだ僕の喉は、辛さと熱さと、温やっこのとろとろした感じを味わい、僕の胃にも熱い塊が落ちましたもん。けれどその次の熱燗を飲む場面になると週刊誌のグルメ評じみていて、温やっこのリアルさはすぐに吹き飛んでしまいました。

安酒には違いないが、熱燗も思った以上に親しみやすい味だった。カツンと尖って辛いのに、鼻に抜けると丸い甘味が漂って気持ちをなだめる。(p.156)

「外はカリカリなのに中はふわふわ」と同等のクリシェ感。残念でした。

結局、ちょっと変わった文体を除くと男が中華街を歩くだけの話、といって文体も別にたいしたことはない半端な作品でした。ここで、辺見庸の「アプザイレン」を読んだときに書いた「やっぱり芥川賞作家は偉大だなあ」は訂正されねばなりません。芥川賞作家とはいえさまざまだ!
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