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古川日出男「冬」

出典:『新潮』2010年7月号
評価:★☆☆☆☆

村上春樹に憧れた中学生が自省を欠いて勢いのまま書きつづった小説もどき。僕は村上春樹のよい読み手ではありませんが、それでもその作品を読むたびに卓抜な比喩と描写に出会っては溜め息をつきますし、読み手を引きつけるストーリーを展開してゆく手腕は多くの人が認めるところだと思います。この古川日出男の作品にも春樹テイストを出そうとしている雰囲気だけは感じられますが、全然うまくいっていません。

まず、ストーリーがどこに向かって進んでいくのか全く見えない。別に「勇者が苦難の末にお姫様を救う」だとか「家族のルーツを探す旅に出る」といった古典的なレベルのものを求めているわけでは全くないです。が、現代の小説だって多少はストーリーの向かう方向について見通しやすさの程度差はあれ、あるはず。この作品では、主人公が京都の南のほうにやってきて犬と暮らす、ただそれだけ。

停滞する物語というのももちろんありなので、それならそれで描写でみせるとか、思弁的な内容を深く展開するとか、いろいろやりようがあるだろうにそういう読者を引きつけようとするところが全然ない。村上春樹の二番煎じ、ただし春樹にはとおく及ばない、似ても似つかないへたくそな書き方。

へたくそな書き方ということでいえば、漢字に独特のルビを振る箇所が再三出て来ます。あえてそう読ませる必要性を感じないものがほとんどで、そのようなルビをあえてふるよりも、もともとルビで指示している読み方を書いておけばいいのにと思います。ルビを独特の仕方でふる分だけ、読み手に負荷がかかりますし、そうなると読んでいくスピードもいちいちそこで停滞してしまいます。いくつかあげれば、

僕は代償(しはらい)を求められているのだ。(p.15)

いたのは家なし(ホームレス)だった。(p.22)

無音(しじま)がガランと鳴るように寒々としている。(p.23)

沈黙(しじま)だ。(p.57)

上で引用した箇所の括弧内は総てルビです。ほかにも「印象(てざわり)」とか(笑)。これだけでももちろん一部。代償にわざわざ「しはらい」というルビあてるなら、元から支払ってしましょうよ。家なしを「ホームレス」。あえてこういう読み方をする必要があるという説明も管見のかぎり本文中には無かったはず。23ページの引用箇所でいえば、無音なのにガランと鳴る、ってどういうことでしょうか。必然性のないこれらの書き方は、「本気(マジ)」みたいな感性ですね。徹底的にダサい。悦に入って連発しているところがほんとどうしようもなく鈍い。ルビが一つだけ成功しているところをあげれば、「昨日(きんの)」という方言の読み方を指示しているところ。これは必然性があるルビです。

あえて別様の読み方をさせるルビは、いわばテクストに別の声を差し挟む行為で、そういう書き方は読者を物語内容から切り離す方向に作用します。批評的な内容や、メタ物語を内包するような小説であればそれもちゃんと使えばありかもしれませんが、この『冬』は当然そんな小説ではありません。

ルビの使い方ひとつとってもこの書き手のどうしようもない感性がにじみ出ています。他にも、これまた必然性のないところで倒置を連発して物語の流れを停滞させます。一例を引くと、

そして診療報酬が出る、病院側に。もちろん患者が死亡しても病院は困らない、なにしろ苦情を訴える家族もいない、家なし側には。検査そのものにも診療報酬が出るからその検査で延々と疾患を発見しつづけることもでき、結局は。(p.53)

変なところもありますが、原文ママです。ここでは「家なし」にはホームレスってルビがありませんね。じゃあ最初の「家なし(ホームレス)」という表記で読者に負荷をかけたのはいったいどうしてだというのも腹立たしいですがこれは置いておいて、上の引用の、どうしようもない倒置の連発。倒置も、たいていの場合は物語の流れを停滞させます。強調したい箇所で使うべきあやですが、これは別に感情をこめて語るような内容では全くありませんね。しかも、「発見しつづけることもでき、結局は。」って(笑)。「でき『る』」って言いたかったのでしょうか。古川日出男ならびに編集者、しっかりしてください。

もう、あらを上げ続ければ翌日まで延々あげられそうですがやめておきます。頭の悪さと技術の鍛錬不足を露呈させる小説。才能も努力もセンスもゼロ作家=古川日出男と私の頭の中にはインプットされました。
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