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藤崎和男「グッバイ、こおろぎ君。」

出典:『群像』2012年6月号
評価:★★★☆☆

グッバイをタイトルに冠する小説だと、太宰の『グッドバイ』やチャンドラーの『長いお別れ』(The Long Goodbye)、チャンドラーのタイトルを意識したであろう矢作俊彦の『ロンググッドバイ』(ただしこちらはThe Wrong Goodbye)。ぱっと思いつくだけでこれだけあるので世の中にはもっと何倍もグッドバイを冠した小説群があるのだろうと推測しますが本作もタイトルに「グッバイ」が入っています。

話は非常にシンプルで一人暮らしの初老の男性が、トイレに迷い込んだコオロギを気にしながら暮らす話。折にふれて幼い頃の思い出を回想するんですがわざとなのかたんにへたくそなのか、それとも年をとるとこんなふうにたびたび思い出してしまうものなのか、はっきりしませんが全体的にみて回想が多すぎる気がします。前半の回想は子どものころの虫に関する記憶と現在のコオロギとの関連があって必然性がある回想です。後半になると、出征した叔父の記憶や迷い犬の話、球界追放になった野球選手の話などストーリー進行を阻害するだけの単なる思い出話が挟まれて回想がウザったくなります。叔父の話なんかは別の短編小説として書けばよかったんじゃないかな。

お年寄りが自分の老境をただベタっと書いただけの小説になってしまわないのは、本作には自虐をふくめた自身の生をユーモラスに相対化する視線があるからでしょうね。さながら便所に迷い込んだコオロギを眺めるように自分の生を眺める、ある種の客観化の視線が感じられてそこが好もしかったです。

もっとも彼がそんな、人の幸せを想像するようなことは一年のうちで数えるほどしかない。たいていは、暑すぎるか寒すぎるか尿意を必死にこらえているかであり、彼は一刻も早く団地に帰り着きたいばかりで、心にそんな余裕がないのだ。(p.111)

たんなる年寄り話だと読むに堪えないものになったでしょうね。文章表現も死んだ比喩のオンパレードですし。それでもこの年齢で『群像』に応募したこと、優秀作賞を受賞されたことは同年代の小説書きたい人々の希望の星になったはずです。次の群像新人賞には高年齢層が大挙して作品を応募してくるんじゃないかなあ(笑)。そのなかから、作品の精神年齢と実年齢とはあまり関係ないものかとも思いつつ、それでも、尻の青い連中には書けないような、壮絶な作品が出てくることをほんのり期待してます。
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