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墨谷渉「カルテ」

出典:『群像』2009年12月号
評価:★★☆☆☆

左右対称に偏執的にこだわる医師の手記の話です。他にも食事の品目、カロリー、飲み物はアルコールの度数まで書き留めたり、就寝時間は分単位で記録したりと、データに並々ならぬ執着を見せる男が、職場で左右対称の顔を持つ女と、これまた患者としてやってきた左右対称の身体をもつ男とに興味を抱き、もともとつき合ってた女をけしかけて患者の男とセックスさせてしまいます。データにたいするマニアックなこだわり、ふつうの人はとらわれないところにこだわってしまうフェティッシュな性癖、手記という体裁、周りの男女関係を巧みに操作して自分は覗きに走る、というところを取りだしてみると、谷崎潤一郎的なエロ小説の系譜にもつらなるのかなと思えますが、谷崎作品にみられる、匂いたつようなエロさというのは全くありません。ここで描かれているのは確かにセックスであったりフェラチオであったり、若い男女の裸であるはずですが、記述は左右対称にこだわる医師の眼を通してのものであるため、それを読む読者は(少なくとも私は)ぜんぜんエロさをもよおさせません。ファッションとしてではなく本気で機械に萌える人なんかはこの感性を理解できるのかもしれませんが。その辺は、共感できないとはいえ、性欲のなくなった谷崎潤一郎現代版みたいな感じもうけて、こういうこともあるのかなあと他人の変わった性癖を覗き見する感じで面白かったです。こんなふう。

つい数時間前にここで、あの地味で無機質だが機能的で機械的な身体が完全な無着衣で個人的な激しい動作を展開した。しかも左右対称の所有者同士によって。そしてわたしは目撃者(あるいは窃視者)として々空間にいた。(p.58)

硬質な語彙を駆使して、左右対称にこだわる医師の偏執性をうまくとらえる文体で、この書き方はこのキャラクターにぴったりはまって成功していると思います。

ただし、クライマックス(女と患者の男のセックスの現場に、医師が立ち会う)になると、それまでつづけてきた「普通はありえないけれど、この男の偏り具合ならあるかもしれない」と思わせるそれまで守ってきたリアリティの約束を踏み越えて、女と患者の男もこの男の世界に引き込んでしまうことになります。そうなると、それまでぎりぎりのところでバランスを保っていたリアリティがいっきに崩壊してしまう結果に。医師の男限定ならありえるだろう偏った世界観を、普通っぽい二人がいきなり受け入れてしまうことはないはずですもんね。その伏線、たとえば二人が左右対称にかすかにひかれる描写とか一切なく、この医師の男の世界観にひかれるというのは、無理すぎる流れで、端的に小説として失敗だと思います。かわった性癖をもつ男の手記として文体は成功していますが、一定のストーリーをもった小説としては説得力に欠けるように思えました。
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