スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

津村記久子「とにかくうちに帰ります」

出典:『新潮』2009年3月号
評価:★★★☆☆

突然の大雨で交通網が麻痺し、会社(もしくは塾)から歩いて帰らなくてはならなくなった大人3人と子供1人。大雨のなか単に駅まで歩くだけの、たったそれだけの話なのだけれども津村記久子の手にかかればこんなにドラマに満ちている。あらためてこの書き手のうまさを認識しました。

うまさの一つには、人の描き方、特に典型的な人間像からのずらし加減が絶妙な点が挙げられます。紋切型の人間から、超絶ぶっとんだ人が出てくるわけではなく、かといってそのまんまのありきたりの人物でもなく。また、駅に歩いて行くわずかな時間の間に、あまり交流のない者どうし、見知らぬ人どうしが、束の間の交流を通じて、つかず離れずさぐりさぐりのやり取りしながら次第に距離を近づける(だけどありきたりのドラマチックな展開には決してならない)変化を描けるバランス感覚。

人の描き方の上手さにくわえてもう一つは、小市民あるあるに妙に共感してしまうところでしょうか。例えば

「ハラさん」前を歩くオニキリが、突然振り向いて声をかけてくる。「すみませんけど、ハラさんが買ったお茶とか、ちょっと分けてもらっていいですか?お金は払いますんで」
 こいつ、あんなにポテトをもさもさ食っていたせいで喉が渇いたのか、とハラは呆れるが、ああ、お金はいいよ、などと気前よく言ってしまう。
「紅茶とお茶と生姜入りはちみつレモンがあるよ」
 腕にかけているビニール袋は、まだ温かかった。これは使えるかもしれない、と思う。レインコートの中に入れて上半身を温めるのだ。
「じゃあ、しょうがはちみつレモンをください」
 いちばん楽しみにしていた飲み物を指されて、ハラは微かに舌打ちをした。(p.63)

こんな感じ。ハラという女性会社員が、オニキリという後輩と偶然一緒に帰ることになった帰路、コンビニのポテトをもりもりたべたせいで腹をすかせたオニキリが飲物をねだって、一番飲みたかったやつをハラさんが飲まれてしまうという場面。この、ささいな違いに一喜一憂してしまうハラさんの小市民性と、幼さに妙に共感してしまいました。僕もあるなあ、こういうとこ。

ただ歩いて駅まで帰るだけの話をこれだけの分量、面白さを失うことなく描けることは素直にすごい。
スポンサーサイト

コメント

Secret

プロフィール

読む人

Author:読む人
小説の感想を、自分基準で。コメントはご自由にどうぞ。

★☆☆☆☆(面白くない)
~★★★★★(面白い)で評価。

最近の記事
最近のコメント
月別アーカイブ
カテゴリー
ブログ内検索
リンク
カウンター
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。