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木下古栗「いい女vs.いい女」

出典:『群像』2010年12月号
評価:★★★★★

初めて出た星五つ。デビュー作の「無限のしもべ」を読んだ時に虜になった作家なのでこの評価には多分に思い入れが入っていますが、もともと独断と偏見で星をつけている(独断と偏見を離れた小説の読み方があるでしょうか)のでご容赦を。これこそ現代の小説とよんでいいんではないでしょうか。もともと短編=短距離走向きの選手で、ネタをポンポン出していって支離滅裂になるというのが芸風の書き手ではあるのだけれど、この作品にかぎっていうなら、その手をかえ品をかえして息切れしそうになったらポンと話題を転換する、けれど転換したあとも「ワイルドとは何か」という問いを探求する(ふりをする)身振りを捨てなかったことが作品全体を貫く軸となってこれだけの分量をもつ作品として成立した勝因だろうなあ。言葉をかえれば、「ワイルド」でボケマショー(@ごっつええ感じ)を延々やってる感じ。ついでにいうと、芸人のすぎちゃんが話題になる前に発表されたこの作品ですでに「ワイルド」に目をつけてるところが妙ににやけてしまう(笑)

いちいち出てくるネタがいつも通り馬鹿馬鹿しい下ネタなのだけれど、やはりそれを読ませるレトリックや仕掛けが随所にちりばめられているのも見逃せないです。くだらないネタをさも真面目ぶって読ませてしまう文体の力と発想とが現代の日本人の書き手の中でも抜けていますね。

あらためて「いい女vs.いい女」を一つの木下古栗の到達点とする文体やアイディアの特徴をまとめてみたいと思うけれどもここではまあこの作品に限って気づいた点をいくつかラフスケッチしておくにとどめます。

これぬきに語れない特質として、随所に「矛盾、対立」を仕掛けるということ。わざとかどうかは判別しかねますが、ちょうど桂枝雀がいってたような、緊張と緩和の、緊張の部分。一文の中にも、テーマの中にも、全体を通して「矛盾、対立」を仕掛けておいて、うまく解消して、あるいはぶつけて、笑いに変換するというのが常套手段ですね。例えば意識と身体の対立。とくに、頭では分かっていても体が勝手に動いてしまうとか、目が勝手に引きつけられてしまうとか、「自然と」「おのずと」という言葉とかをよく使ってる気がします。

ハッと我に返り顔を背けて、小走りにその場を離れた。が、覗き見などしてはならぬという気持ちがまじまじとヌードを観察したい気持ちに負け、すぐ取って返してまた覗いた。(p.59)

一度は裸男のいる現場を離れようとするも、やっぱり覗きをしたいと思って足がそっちを向いてしまう。頭と足とが矛盾しますよね。他の作品でも木下古栗はこういうギャップを仕掛けていますが、本作でこの頭と身体の(古典的で紋切型の)対立が生きているのは、やはりテーマに選んだ「ワイルド」に尽きると思います。頭と身体は、言葉と行為と言いかえてもいい。

現代の、何もかもががんじがらめになって息苦しい時代、頭でなんでもコントロールしてしまう時代、その頭を裏切り、出し抜き、反抗し、組み伏せてしまうかのような身体の動きは、まさに「予想を裏切る」ワイルドに通じるものでしょう。ワイルドを通して人間の原初へ、根源へと回帰する。脳内に住みつく裸男が原始人を連想させ、バーの向かいのカウンターに座る女を見つめるあまり野獣に変身し、野外露出を楽しむ場所が俗世間から離れたどこともいえない楽園を彷彿とさせるのはだてじゃありません。どれも息苦しい現代生活のなかでワイルドへの衝動が一瞬噴出する場面です。今までの作品ではただ笑いのネタだった頭と身体の矛盾という仕掛けが、この作品ではワイルドというテーマのおかげで一つ深くなっていまね。

また、緊張の緩和のさせ方が伝統的な文学的手法、レトリックにうまくのっとっているので、「うまい!」と思わず膝を叩いてしまうのでしょうね。そんなに小説を読まない読み手だと、単に下ネタの部分だけに反応して笑うに過ぎないと思いますが(もちろんそれでも十分楽しめる)、ある程度小説を読んできた人(あるいはすでに物書きである人たち)の間でこそこの作家の評価が高いのは、ひとえに伝統的な手法を十分すぎるほどに使いこなしながら、馬鹿馬鹿しいネタを表現できる爆発力を備えているからです。本作の終結部分に近いクライマックス、「郵政民営化は野生化だ」との主張は、そこにたどり着くまでにさんざん「ワイルド」でボケマショーを手をかえ品をかえ繰り返してきて前ふりによって読者に準備体操させておいた挙げ句の、壮大な諷喩によるクライマックスです。諷喩ってなんだっけという人はレトリック辞典で調べてください。この、郵政野生化のシーンは文学の伝統と現代とがガチンコでぶつかった、近年の小説のなかでも屈指の名場面です。教科書に乗せたい。

長くなりそうなのでこの辺でやめておこう(笑)。もう少し詳しく、稿を分けて木下古栗の文体、語法について描いてみようと思います。時間ができたらですが。これと同程度の分量をもった作品をもう一つぐらい書いて、芥川賞は審査員の関係もあって無理かもしれないけれど三島賞はぜひとっていただきたいですね。この作家に書き続ける場を!
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