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荻世いをら「逆光」

出典:『群像』2009年12月号
評価:★★★☆☆

素直に受けとると①突然死した夫の意識が妻の身体に入りこんでしまってまわりとちぐはぐがおこってしまうSFあるあるの話と読めるのだけれども、別の読み方としては②夫の死がきっかけとなって妻の意識ぶっとんで夫の真似をしてしまっているサイコ話とも読める。書かれてある内容よりもむしろ、③言葉の働きとして「私」に何でも代入できることの不思議を利用した言語トリックとも読める。いろんな可能性=読み方を楽しめる小説だと思いました。

素直に読んでごくごく単純に①と受けとると、うまく説明つかないところが残ります。例えば、夫が大学時代からの友人にお金を借りていたのだけれどもそれを全くしらないこととして片づけてしまうところ。②とうけとるとやはり説明のつかないところが残ります。夫の浮気が元で自分の身体に傷をつけていたにもかかわらず、それを知らなかったこととして不思議に思うところ。夫、妻という画然とした仕切りがとれて、双方の意識が癒着してしまったような話として結局は読みましたが。他にも何かこの不可解な状況を解く解釈があるのかもしれないけれど、ちょっと僕の貧相な頭では思いつきません(笑)。タイトルも、メタフォリックなもので絶妙。

荻世いをらは、この「逆光」もそうなのですが、読み終われば確かに小説なのだけれど、一つひとつのピースを嵌めていっても最後のピースがうまくはまらない、もういちど別の嵌め方でピースをうめていってもやっぱり最後の空白が残ってしまう、不条理なパズルみたいな作品をつくってくれる書き手です。どこかに引っかかりを残してくれる小説というのは読んでいて(読んだあとも)楽しいですね。たぶん理系だな。安部公房の、観念的なところ、理屈っぽいところを後景に退かせて、ちゃんと作品世界を作品世界として作ってくれる稀有な書き手で毎回楽しみにしています。

以下は本筋とはそんな関係ないけれど面白いなと思った表現。こういううまい描写をさりげなくやっちゃうところも力のあることをうかがわせます。

「え」

上は、作品の出だしです。不意にこの世界に引きずり込んでいくような冒頭。会話で始まる作品はよくハードボイルドで見かける気がしますが(ちゃんと統計的に調べたわけじゃありません、気がする程度です)、この短い「え」という出だしは効果的ですね。一音で何かを聞き返している、まさに会話の渦中にあって何か言った相手がいることを、たった一文字で表す。会話の中に読者はいきなり放りこまれるわけですね。

 枯葉の擦れ合うような声には、さらなる老いが見受けられた。紫色の血管の浮き出た、木綿豆腐のように肌理の粗い手の甲が、蛍光灯のフリッカーのように、よく見なければわからないほど、細かく震えていた。(p.146)

 ニイヤマさんはこちらの顔を嘲るようにして、その美貌を私の鼻の先まで迫らせてきた。ファンデイションの彫り込んだように鋭い香りが眼球へじかに触れて痒い。(p.151)

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