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筒井康隆「三字熟語の奇」

出典:『文學界』2012年4月号
評価:★★★☆☆

このブログで取りあげる作家の方針はまったくないのだけれど、気がつくと三十代ぐらいまでの比較的若い書き手が多い気もしたのでここで筒井康隆御大を。マルチに活躍する作家の印象ですが、本業の小説も最近純文学雑誌によく発表しているような気がします。へたな若手よりも多作。こういうのって大御所から原稿がくると編集者は無下に没にできないとかそういうシステムなんでしょうか(笑)

まあそれはおいといて、本作はすべて三字熟語で構成されている変わった作品です。四字熟語ばかり集めた単語集なんかでも、その熟語の由来や解説がついてくるわけですが、この作品はタイトルと作者名、最後の〈了〉以外は全部漢字三文字です。まず立ち並ぶ字面に圧倒され、小説はビジュアルも大切だということを実感させてくれます。三字熟語が書かれるフォーマットも一行あたり21マスの原稿用紙風。

また、並んでいる三字熟語が全くランダムには選ばれていないということも不思議です。書かれてある三文字熟語一つひとつには解説など全くないわけですし、それらをつなぐ機能語、分ける句読点も一切排除されています。正確にいえば、三字熟語と空きマス一つのブロックが延々と繰り返されています。単なる三文字の漢字+スペースの繰り返しのはずなのに、それぞれをつないだり句切ったりする言葉や記号はないはずなのに、読む方はいつしかそれぞれの単語をつなげたり、切り離したりして読んでしまっている。

万万歳 政治家 参議院 不安定 共和国 不快感 無愛想 軍資金 任免権 官僚的 威圧感 不適切 議事堂 不案内 衆議院 風雲児 風水害 被災者 避難民 密入国 居留地 移住者 大使館 不穏当 喧嘩腰 国務省 伏魔殿 指導者 不景気 人国記 君主国 宗主国 議定書 独立国 国際色 北半球 (pp.11-2)

たんなる字面とスペースから、物語を立ち上げてしまうのはあきらかに読み手の思考が働くからで、この作品を読んで改めて、読書というのは本だけでは成り立たない、読者がいて初めて成り立つアクティブな行為なんだということが判ります。ないはずのものが立ち上がるわけですから。広い意味での読書行為を明らかにしてくれる手がかりとなる小説なのは間違いありません。

この漢字を連発する小説(といえるのかどうか不明ですが)は、一つのアイディアでいろいろ応用できそうな雰囲気もありますね。スティーブ・ライヒなんかを聞きながら読むのが正しい読み方でしょうか。

ただこういう作風が許されるのはやっぱり大御所だからというのも同時にあるのだろうなと思います。上であげたようにこの小説が持っている意義というのは確かに感じ取れましたが、じゃあ同じ作品が小説の新人賞応募作として応募されてきたときに最終選考ぐらいにまで残るかどうかは結構怪しい感じがします。あるいは新人賞受賞後第一作としてこれを脱稿した新人作家がはたしてこの作品を掲載してもらえるかどうか。これも結構怪しい。そう考えると、作品と作者とはやっぱりセットなのだろうなあという、文学の制度も意識させてくれます。いい悪いは別問題として。

(追記)構想段階での筒井康隆本人の言葉。小説と呼ばれないかもしれないという予想は本人もしていたのですね。

「三字熟語」というのは、今話題になっている四字熟語が比較的縁起のいい熟語ばかりであるのに対し、ふと思いついてしらべたところ三字熟語にはどうもろくな言葉がないので驚き、これを列挙して「三字熟語の奇」という短編に仕立てあげようという構想だ。ちょっと紹介するだけでも「座敷牢」「往生際」「就職難」「姥捨山」「轆轤首」など、まったくろくなものがない。ちょっといい言葉であっても、こういう言葉の中に嵌め込むとたちまち悪い意味になってしまう。面白いのでいろいろ並べ替えて楽しんでいるが、これ発表したら、こんなものは小説に非ずというのでまたまた評判が悪いことだろうなあ。「偽文士日録」十二月二十二日(木)より

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