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舞城王太郎「美味しいシャワーヘッド」

出典:『新潮』2012年8月号
評価:★★★★☆

この人の芥川賞受賞はあるんでしょうか。そしてもし受賞したら姿を見せてくれるのでしょうか。

さて、舞城王太郎の作品です。はじめて読んだ『煙か土か食い物』以来ずっと読み続けている書き手で、デビュー時からすでにこの人の文体、語り口は完成されていたんだなあと今さらながらに思うほど、ドライブ感のある小説をつぎつぎ繰り出してくれます。メタな部分が冗長だったり説教くさかったりするところも作品によってはあるんだけれども、この「美味しいシャワーヘッド」はそんなこともなく丁度よいくらいですね。

古い、といっても戦後数十年ほどの小説には、オノマトペの多用はよろしくないみたいな信憑があった気がするのですが(だからこそ井上ひさしがオノマトペの効用を文章読本で語ったり、野坂昭如の語りが新鮮に感じられたりした時代があった)、もうそんな因習などどこ吹く風、なんの衒いもなくオノマトペの連発で楽しませてくれる舞城王太郎。へたくそな書き手がオノマトペを不用意に使うと幼稚になったり独りよがりになったりしてしまうことがままありますが、この人の場合、どれも説得力があるのだなあ。

……。「うるさいよ」
「はは。ごめんごめん、ごめんだひょ」
「……」
ぶしーっ!「あっはっは!」(p.13)

握手だけだと思っていたら、顔のそばに引き寄せた僕の手の指を、毛利が舐め始める。一本一本、ゆっくりゆっくり、べろうり、れろりろ、ねろすちゅぼんぷ、すぷうううんろ、りろれそ、ちゅんぼり、と。(p.15)

コンバインそばの僕にはバイーンガザザザザザ!って稲から籾を取る作業音で何言ってるのかは全く判らなかったが(p.17)

 犬が「ウロロロロ!ボロロロロ!」と何かスイッチ入ったみたいになって僕の右腕を左右にステップしながら引っ張り、あ、なんだこんなもんかって気分はあったけどやっぱり怖くて「ちょ、ごめんごめん」と思わず謎の謝罪が口をついていた。(p.24)

他にもたくさんありますが面白いなあと思ったのはこの辺です。どれもありがちなオノマトペの表現からずらしたり、新しくつくったりしながら語ってゆく。ライブ感がはんぱない。最後の犬の呻り声なんかは、「う」にしろ「ぼ」にしろ口をすぼめて発音しないといけないところがちょうど犬の口の形になりますし、「ウロ」とか「ボロ」という音の連なりを字面で見ると、僕なんかはウロボロスを連想してしまいます。ウロボロスはこの場面には全く関係ないですが、読ませる文章にはこういう、読み手の思考をあからさまに、あるいはサブリミナルにマッサージして刺激する働きがあり、舞城王太郎の、特にオノマトペにはそういうところが多々あって読むたび名人芸だなと思わされますね。

舞城オノマトペに説得力がある理由の一つはおそらく、耳がいいことと耳で聞いた音を五十音に四捨五入できるテクニックが共存しているから。もう一つは、デビュー作で「文圧」という言葉が売り文句として使われていましたが、圧倒的なドライブ感をもつ文体に、感覚的直観的なオノマトペがうまく乗っていること。一度もきいたことない表現でも、舞城王太郎が作品のなかで連発するオノマトペを読めば、たしかにそんな気がするという、有無をいわさない説得力があります。

オノマトペのことばかり書いてきましたが、一篇の小説としても面白いエピソード満載ですし、オノマトペ以外の表現技術にも見るところがたくさんあります。未読の方はよかったら一度読んでみてください。損はしないはず。
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