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阿部和重「クエーサーと13番目の柱」

出典:群像2012年2-4月号
評価:★★★☆☆

言わずとしれた阿部和重。初期短編の韜晦ムードは(僕は好きだったのだけれど)すっかりなりをひそめ、いい意味でも悪い意味でもずいぶん読みやすい作家さんになったなと思います。

本作は、ある個人投資家からの依頼でアイドルグループの一人を24時間監視・追跡するチームの小説。特に、チームの主要人物タカツキリクオの視点から事件の推移が語られます。ややこしい話はヌキにして、アイドルを密かに監視する専門家集団の活動を描くというのは、日本版オーシャンズ13のような──ただしクエーサーのチームはメンバは玉石混交──感じをうけます。13、ていう数字が入っているところからそういう連想をしました。

ビジュアルも、初期短編群や『シンセミア』のようにページを開くとズラっと漢字率の高い文字で埋め尽くされているのとは対照的に、かなりの部分会話で処理してテンポよく話を進めていてスピーディーです。かつ地の文も、小説を書くときにはよく言われる日本語文末の貧しさ(「~た」「~だった」)を回避するかのように、多分すべて現在形で書かれており、臨場感・緊迫感がいやおうにも増しています。文末は逐一チェックしたわけじゃないので、過去形あったらすみません。

面白そうな素材を、スピード感・臨場感ある文体で語る、というのはとても期待がもてた反面、もろ手をあげて楽しめないところも。

まず、作品のキーになるはずの「引き寄せの法則」が結局中途半端なものに思われました。「法則にあてはまる事例だけを見て、法則に当てはまらない事例は恣意的に無視しているご都合主義だ」というタカツキの反論に、法則を信奉するニナイは納得いく回答を示していません。また、登場人物が多すぎてあまり掘り下げがなかった人物(最初から出さなかったらよかったのに/数人を一人に統合できなかったのか)もいてこの辺も食い足りませんでした。

スピード感を意識した文体ながら、一方で、理由のよくわからない冗長な会話もあります。

「ぼくはウィリアム・アーサー・フィリップ・ルイスとおなじ日に生まれたってことです」
「ウィリアムなに?」
「ウィリアム・アーサー・フィリップ」
「ウィリアム・アーサー・フィリップ?」
「ウィリアム・アーサー・フィリップ・ルイス・マウントバッテン=ウィンザー」
「だれだそれは?」
「イギリスのウィリアム王子ですよ」
「ウィリアム王子ってあれか、ダイアナ妃とチャールズ皇太子の長男」
「ええそうです」

こういう風にだらだら書く必然性が全くないんじゃないかなあ。

先にあげた僕にとっての食い足りない部分は、もうちょっとこの作品の分量が多ければ十分補えたんだろうなと思い、もうすこしこの作品を読んでいたいなあとないものねだりをしてしまいました。天邪鬼なことを考えてしまうので、たとえば「引き寄せの法則が今後一切実現しませんように!」と強く願ったら引き寄せの法則は実現するのかしないのか気になるところ。

ちなみに、2012年『群像』8月号では『クエーサーと13番目の柱』を読むという特別企画があります。評論は佐々木敦「DAYDREAM BELIEVER」、オマージュ短編は青木淳悟「MEDSYS(マルチエンディングシステム)の別解」。評論にある、「紋切型を十分紋切型と知りつつそこを突き詰めてみる」という方法論は非常に頷けるところ大で、たしか阿部和重短編に「女子高生がバイクの後ろに乗って銃撃戦なんかもあり、最後はバイクが事故って札びらが道路に散らばる」みたいな奴があったはず(笑)ですが、それなんかは非常に紋切型を突き詰めててニヤニヤして読んだ覚えがあります。

僕が十分読めてないところもあるはずなので、蓮實先生のクリアな解説(阿部和重×蓮見重彥、『クエーサーと…』出版記念対談)を待つかなあ。あるのかな、対談。
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