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荻野アンナ「背負い水」

出典:荻野アンナ『背負い水』(文藝春秋・文春文庫・1994年)
評価:★★★★☆

ここ数年の文芸誌の感想が続いたのでブックオフで買ってきた100円文庫本をとりあげてみます。

アラサーという言葉が広まったのは2000年をだいぶまわってからだったと思いますが、「背負い水」の語り手はまさにアラサー女子。結婚するかどうするのかで不安定な立ち位置にいながら、何人かの男の間で揺れ動く女性です。「背負い水」の初出は1991年の『文學界』なので執筆時期なんかを考えてみれば、丁度世の中がバブル景気でウハウハだった時期の終盤。狂騒する世間を尻目に語り手の女性は、「清貧」に甘んじるという構図が文学作品として描かれる意味はあったんだろうと思います。

貧しい苦しいという独り言だと何の面白さもない伝統的お文学ですが、この作品はそういう堅苦しさは背景に退き、語りの軽みが前面にたっています。落語由来の軽妙洒脱な語りが、世間を斜に見ながらフワフワ生きるこの女性のものの見方とマッチして楽しい。荻野アンナ自身、2005年に11代目馬生師匠に弟子入りしてるんですね。いまググって知りました。

表現レベルでいえば、こういう軽さがある一方きちっと伝統的な文学レトリックも踏まえていて、固有名詞以外は今読んでも古びません。自意識過剰な女の子がペラペラ閉じられた言葉でお道化を演じる小説とは一線を画す真剣さが背後に感じられます。また、この作品が書かれて後の、アラサー女子の悲喜劇を予告していたという意味では、現代性も先取りしていたということになるかもしれません。

知性の閃きといったらいいのか、これこそ落語のサゲがばちっと決まるような見事な締め方で、最後の一文を持ってくるセンスには脱帽しました。

最初から半分諦めていたが、意外なことに快諾してくれた。
「わたし、ウソッコ大好き」
 取材が記事にならないことなど日常茶飯事であるからして、気にしない、気にしない。剛毅である。これでこそ親友というもの。目頭が熱くなった。今後彼女の記事は眉唾で読むことにしよう。(p.81)

語り手の女性が、親友に名義貸しをダメもとでお願いしたところ快諾してくれた場面。OKの返事をもらって、目頭熱くなりながらも、最後の最後で、「彼女の記事は眉唾で読もう」というのは思わず吹き出しました。

女性作家で、こんな風に語り口が楽しめる作家はそれほど多くないと思うので、荻野アンナ、もうちょっと読み直してみようと思います。
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