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守山忍「隙間」

出典:『文學界』2012年12月号
評価:★★★☆☆

新人賞つながりということでこの前発売された『文學界』から。書き手の苗字は、もりやまじゃなくて、かみやま、だそうです(変換できなかった)。複数選考委員がすでに指摘しているように、覗きを扱うとか、仲のいい女兄弟とか、関西弁というキーワードから連想される谷崎潤一郎の影響が満載の小説です。影響ということでいえば、

いかにも肥えた土らしい黒い畝に、鋭く尖ったニラが整然と植わっているさまは、清潔だった。(p.24)

の、「清潔」の使い方なんかは川端康成を想起させます。

文章がとても整っていて、『肉骨茶』の暴れ馬ぶりとはまた逆ですね。非常に丁寧に、洗練されたことばを選んで使用しているというのは(後半ちょっとその緊張感が緩んだ気がしないでもないですが)、悪くいえば新しさがない保守的な作風です。まあ掲載雑誌の性質上保守的になるのは仕方ないのかもしれませんが、それでも新人らしさがいい意味でも悪い意味でも感じられない、完成度の高い優等生的作品でした。

冒頭いった谷崎との関係について一言申し添えると、ぱっと読み、確かに谷崎が好んでとりあげたモチーフが散りばめられていて「似てる」という指摘は間違っていないんですが、恐らく書き手が意図していない部分での谷崎との相違もはっきりとあります。谷崎の場合、その新奇な素材(サドマゾ、エログロ、スカトロ、百合、不倫、スワッピングその他もろもろ)にどうしても目が行きがちですが、一方で登場人物たちの社会階層や家柄には非常にこだわっています。どれくらいの収入の職業で、どんな地域出身で、どの辺に住んでいて、交友関係はどのくらいで、という風に登場人物のデータプロファイルが、綿密に作品に嵌めこまれています。そういう下部構造(死語)を土台にして、目を引く素材を散りばめるエンタメ性があるので、谷崎作品の登場人物には「いるいる、こういう人いる!」というリアリティが非常に強く感じられます。

反対に、守山忍「隙間」では社会経済的な土台の作りこみは希薄です。それが一因となって、登場人物たちの足場が固まっていないというか、どこかふわふわしたとらえどころのなさがどうしてもつきまといました。描写一つひとつは丁寧できちっといているんですが、作品世界総体を統括するリアリティの面ではあまり行き届いていないように思います。淑子の教職に就いているらしいことも終盤、取ってつけたように触れられるだけですし、覗き行為をする男にいたってはどんな仕事のどんな経済状況の人かほとんどわからない(庭のない家で育った、くらいでしょうか)。もちろん、登場人物の経済状況を逐一書き入れるような野暮な書き方は論外ですが、仄めかしくらいあれば登場人物たちのすわりが良くなったんじゃないかな、と思います。

先行作品を小器用に真似した作品でどや顔されても、こっぱずかしくなるだけなので、次回作で、なにかこの人にしか書けないような新しさを期待したいです。
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