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吉村萬壱「虚ろまんてぃっく」

出典:『文學界』2010年3月号
評価:★★★★☆

人間を徹底的に突き放す見方ができ、かつそれを硬質/高質な文章にのせて表現できる作家、吉村萬壱の短編。グロテスクな描写や残虐な表現が多く万人うけするテイストではなさげですが、そういった描写・表現を読むたびに私は溜め息をついてしまいます。ぬるい日常生活を過していると無意識のうちに目をそむけてしまいそうな行動・情景も、吉村萬壱の目を通してこそ初めて、ぬるま湯につかった僕は垣間見られる、そんな風に思います。

 箱型バンのサイドドアがスライドして、上半身に毛布を纏った女が首を突き出す。女の髪が砂混じりの風に舞い上がる。女は毛布に包んだ裸の体を小刻みに痙攣させながら、数回にわたって車の外に嘔吐する。その嘔吐物は役に立たない言葉の成れの果て、即ち物質化した言葉の最終形態である。
 伊呂波埠頭は言葉を忌避する。
 女は言葉の病に冒されている。
 細い肩と蒼白い背。地面に黄土色の液体が丸く溜まって、盛んに湯気を上げる。嘔吐の合間に、女の激しい咳込みが挟まる。毛布から露出した女の裸の尻を、下半身を露わにした男の両手が摑んでいる。女は男の手を後ろ手に握って爪を立て、身を捩って咳き込み続ける。女の粘りのある唾液が、長い尾を引いて風に飛ばされていく。(p.149)

終盤までずっとこのテイスト。こういうテイストを持続できる表現力は日々文章の筋トレしてないと無理だろうなあ(筋トレしてないと、ついついヌルい表現に流れてしまう)。

この作品は短編ですが、明確な言葉による発言を省略し伊呂波埠頭の細胞視点で、登場人物たちを突き放し(もし人間的なぬるい感情や行動を抱けばたちまち伊呂波埠頭によって罰せられます)、不気味な情景や行動がたんたんと描写されます。人間がモノ化され、モノが人間化(ただし極端に冷淡)され、人間とモノとが等価になっています。特殊な視点のネタばらしの部分では思わず笑ってしまいました。

不気味、殺伐、不穏な雰囲気が終盤まで徹底している本作ですが、たとえば三木聡監督なんかがこの作品撮ってみてもけっこううまくはまる気がします。当然、不気味テイストを直接的に描くんじゃなくって、グロ、ナンセンス、キッチュなテイストで、コメディチックに、という。ホームレスが火を囲んでうどんを食べるところなんかは、ありありとイメージできました(笑)


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