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綿矢りさ「ひらいて」

出典:『新潮』2012年5月号
評価:★★★★☆

作中でも引用されているとおり「サロメ」に着想のヒントを得たとおぼしき小説です。短編とか長編とか、正式な定義をしらないので結構感覚的に使ってしまいますが、この「ひらいて」は240枚ということで中編でしょうか。綿矢りさの作品というと、あまりたくさん読んだ記憶がないのですが、その理由は『インストール』『蹴りたい背中』を読んで、なんというか「うまいけどこじんまりした感じ」といったらいいのか、「俗っぽいうけねらい」というか、そういう感想をもってしまってそれ以降、短編ていどに目を通すことはあったものの、基本的には敬遠していました。どうせにたようなもんだろう、と。

でこの「ひらいて」ですが、読んでみてその評価をあらためました。「サロメ」を下敷きにしているから、というわけでもないですが、『インストール』『蹴りたい背中』同様、少年少女をあつかいながらも、その人の動かし方が俗っぽくなりすぎず、展開をぐいぐい引っ張ってくれるから。

三人の男女、語り手の「愛」、愛が恋する「たとえ」、「たとえ」と5年にわたってつき合っている「美雪」が主な登場人物です。俗っぽくなり過ぎない要因としては、それぞれの人物をキャラものとして紋切型的に描くのではなくて、一人ひとりはもちろん丁寧に描きながら、その一方で一人ひとりの「関係」にまで踏み込んで描ききっているところが挙げられます。語り手「愛」の立ち位置から見える関係は、そのつど恋愛感情になったり、嫉妬になったり、友情になったり、征服欲むき出しの関係になったり、さまざまに姿を変える関係の流動性、離合集散が、読者をめまぐるしく魅了してくれます。ぐいぐい引き込まれました。

特に、たとえ君がふりむいてくれないあまり、語り手の愛が、たとえ君の彼女の美雪に手を出してレズビアンのような関係になってしまうというところ。この発想は秀逸です。こんなんあるんかな(笑)と半ば信じられず読み進めていましたが、作中でも

私はなぜ、好きな人の間男になったのだろう! 好きな男にふられた腹いせに彼の女と寝る、こんな女子高生が他にいるだろうか。(p.70)

と、語り手の愛が、自分自身に突っこみを入れています。女の子が自分自身を「間男」呼ばわりしつつ、こんな女子高生がほかにいるだろうか?って(笑)。ビックリマークもふくめて後藤明生的なセンスですかね、これは。

あと特筆すべき点として、濡れ場の描き方。これはうまいですね。身体やアクションの描写の合間合間に、抽象度をあげた記述が入ってきてこれまた魅了されました。

歯の浮くせりふを並べたてながら再び美雪にキスをしたとき、私はすでにそれを作業として事務的にこなしていた。なるべく相手が女だと考えないように苦労して唇や舌を動かしていると、突然美雪が反応を返してきて、私もしばらくその感触に夢中になった。顔を離すと美雪はそのまま熱い唇を私の首や鎖骨にまばらに降らせた。だれか止めてくれと心のなかで叫びながら、私は冷えたままの手で自分のブラウスのボタンを外し、前を開いて肩までずらすと、美雪のキャミソールもまくり上げた。細身の美雪の素肌と、私なら絶対つけないような綿素材のブラジャーが現れて、目の前がくらくらしだした。いままで男の人との間に積み上げられてきたいくらかの経験が、何の役にも立たないまま崩れてゆく。
 つらい状況に陥り、息もできないほどに追い詰められると、いつも頭に思い浮かぶ風景が私にはある。ごく幼いころに訪れたどこかの旅行先の海の風景だ。クリームソーダの色をした異国の海は、強すぎる光で白く見える太陽を浴びて、のっぺりと、しかしとてもつめたそうにきらめいていた。幼い私は缶を振ったあとコップに注いだ炭酸飲料のようにシュワシュワと泡立つ波打ち際のあぶくを踏みながら、小さな歩幅で砂浜を歩く。
 遠い記憶はまるで曇ったガラス瓶の内側に詰められたようにぼやけた、甘い色彩をしている。手を浸けた海水は冷たく、私は泳がずにしゃがんで、ただ波打ち際の砂を掘り返し、掘る度に冷たくなっていくその海水と泥のように重い砂のなかに、静かに両足を埋めた……。
 美雪の痩せた腰、浮き出た鎖骨、産毛が埋める肩の肌の味、後ろから強く摑んだらくずれそうなほど柔らかい乳房。そのどれもが私に鳥肌を立たせて、私に絡みつく彼女の脚を振りほどきたくなる。感じると切なげに私を締めつけてくる彼女の脚は、内股だけが溶けそうに熱く、私の太ももに熱を移す。臍から胸までの身体の真ん中を、下から上へ舌でそろりと舐め上げていると、美雪があまり大きな声で喘ぐから、階下の彼女の母親に聞こえないか心配で、思わず恐くなって美雪の口をふさいだ。
 髪をかき乱し、私の愛撫一つ一つにきつく目をつむる美雪は、ときどき薄目を開き、私の顔がこわばっているのに気付くと、手を伸ばして私にも触れようとしたが、私はどうしても悦ばされる側にはなりなくなくて、さりげなく避けた。すると彼女の手は目的を失ったままベッドに落ち、重い、快感に耐えるうめき声が響きだした。
 女の身体で知らないところはなかった。彼女の身体は私と同じく、隆起や曲線を複雑に描き、ときどき私は自分の身体を抱いている感覚に陥り、ゆるい吐気に襲われた。どこをどんな風に触れば良いか考えるとき、私は私の経験を思い出さなければならず、そのたびに私の身体の映像が彼女の身体の上に重なった。
 くだけた熱いゼリーのような感触の場所に指を進めると、(pp.67-8)

この続きは、ぜひ作品に直接あたってみてください(笑)
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