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山田詠美『ベッドタイムアイズ』

出典:山田詠美『ベッドタイムアイズ』(河出書房新社・河出文庫・1987年)
評価:★★☆☆☆

ブックオフ100円シリーズ。

綿矢りさの「ひらいて」で描かれた三角関係が、男-その男と付きあう女-その男とつきあえないので女を寝取る女、という関係だったのにたいして、この作品の三角関係は、女-その女と付きあう男-その女とつきあえないので男を寝取る女、という関係で読みながら似ていなくもないなあと思いました。綿矢作品の人間関係が『ベッドタイムアイズ』を意識していたというのは妄想レベルの主張だとおもいます(笑)が、三角+α関係というのは古くから文学作品にとりあげられやすい人間関係なんでしょうね。

さて、綿矢作品と関係ないといいながらしかし人間関係ではにたようなきもする『ベッドタイムアイズ』。文庫解説は竹田青嗣。解説で

ここに書かれているのはひどくナイーヴなひとつの愛のかたちにすぎないのだが、それについてなにか言おうとすると、しかし簡単でないことがすぐに判る。(p.144)

と、戸惑いをいきなり表明しています。私もこの作品を読んでいて、この作品を通して何かいいたいことがありそうだという印象とか、自分の思考が刺激されるような示唆だとか、そういうものはあまりうけませんでした。ただただ黒人のスプーンと呼ばれる男と、スプーンにほれたキムという場末の歌手との濡れ場を、キム視点で展開しているだけという。三角関係にも一瞬なりますが、ほんと唐突に三角関係になって、なにもなかったように関係が解消されます。結局竹田のいうように描写しかありませんが、デビュー作ということもあってか描写力もすごく素朴、わるくいうと拙いのでそこに魅かれるかというと僕はぜんぜん魅かれません(竹田の解説ではそこに「解釈」や「観察」がなくただ場面場面が肉体の動きや息遣いのなかで描かれる技法が新しいのだ、といっています。ほんとかよ(笑)と思いますが)。

発表時が1985年で、発表当時は黒人男性とのカラミを赤裸々に女性作家が描いた、という要素がそれなりに刺激的だったのかもしれません。ただ、今の時点で読むと、遅れてきた村上龍のような印象しかうけませんでした。「私はとにかくスプーンがすき、すきすき大好き、スプーンはなにか悪い事をしているみたい、でもそんなの知らない。あたしにとってはスプーンがすべて、惚れたあたしがあほやねん」というような演歌浪曲浪花節でしょう、これ。作品は一貫してキム視点ですが、これを相手のスプーン視点にきりかえてみれば、「自分の手を染めている犯罪行為も深く穿鑿してこないし、クスリをやってもうけいれてくれるし、酒を飲んで暴れても許してくれるし、おまけに飯やセックスの相手までしてくれる」都合のいい女=キム。どうしようもないなこりゃ。

綿矢作品には、人間関係の微妙な揺れをそれこそスタンダールのように心理小説としていまどきあえて描いていることに一種新鮮な感動を覚えたのにたいし、この『ベッドタイムアイズ』には場末の酒場で有線からながれてくる演歌のようなBGM程度の重みしか感じませんでした。まあ読み手の感受性の問題でしょうね。

文体のうえで、とりたてて面白いとも思いませんがルビの多様は特徴として挙げられます。

「ねえ、その封筒なあに」
「金もうけのもとだよ」
「見せて」
 中を覗こうとする私を台所(キッチン)に追いやり、彼はあちこちに電話をかけ始めた。私は仕方なく氷を割りバーボンソーダを作り始めた。
「OH! SHIT! そのガッデムマザーファッキンソーダをくれよ」
 電話をたたきつけるように切ると彼は私の方に向きなおった。彼の四文字言葉(フォーレターズワーズ)は極めて音楽的に聞こえる。それに入っていない優等生英語は今の私にとっては不能の男の飲む気の抜けたビールのような代物だった。彼が私をbitch(あばずれ)と呼ぶ時、私は親愛なる同志を見るように感じる。スプーンはビッチの男なのだという根拠において。
「お前が仕事に行くまでパーティしようと思ってよ」
 エボニーマガジンの上に白い粉をあけてスプーンは均等にその粉の分量を量っている。IDカードで仕切られたホワイトラインを見詰めながら私はぼんやりと傍に立ちすくむ。やはりニューヨークのハーレム育ち、ドラッグとは共存関係にあるらしい。
「オレのディックはろくでなし。プッシィ欲しくてディスコにカフェバー…」(pp.33-4、括弧内は全て原文ルビ)

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