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石原慎太郎「僕らは仲が良かった」

出典:『文學界』2013年1月号
評価:★★☆☆☆

暴走老人石原慎太郎の小説です。都知事から国政政党の党首に転身して小説も発表する、それぞれの仕事のクオリティには賛否あると思いますが、エネルギッシュなのは間違いない。こんな80歳なかなかいません。

で、『文學界』にたまに掲載されているけれども結構読み飛ばしている人もおおいのではなかろうかと勝手に思っている石原慎太郎の小説です。悪文という評は昔からついてまわっているみたいで、この作品もたった三人の男たちが会話しているだけの場面なのに、誰がどの発言をしているのかよくわからないっぷり。計算してやってるなら別だろうけれど書きとばしてるんだろうな、と思わざるをえない雑さです。

短編「僕らは仲が良かった」の構成は次のよう。既に社会的に地位のある三人の男たちが、お台場の役員室に集う場面からはじまり、旧制高校が新制高校に入れ替わる時代に同じ学生寮で一緒に過ごした仲間の関東から西日本への旅の回想へと流れ、そして現在に戻ってくる。老人男たちが「あのころは若かった」と回想するただそれだけの話です。にしても、芥川賞選評で「タイトルがなってない」と難癖つける割にこの短編のタイトルはひどいもんです。自分だけは例外か。特別か。

〔第133回芥川賞選評〕今回の候補作の水準は総じて高いものだとはいえそうにない。第一それぞれの作品の題名からしてが安易で、語るに落ちるといったものが多かった。題名は作品の心髄を表象する重要な一部だと思うが。

〔第137回芥川賞選評〕自分が苦労?して書いた作品を表象する題名も付けられぬ者にどんな文章が書けるものかと思わざるをえない。

はい、ブーメラン(笑)(選評は「芥川賞のすべて・のようなもの」より)

閑話休題。小説の読み方って「作品だけで評価する」という原理主義的態度は読み手の理解の幅を無理に狭めているだけのような気がしないでもないわけですが、それはやはりこの作品を、作者と切り離して読むか、作者とセットで読むかで評価がガラッと変わることによって、その確信を強めました。セットで読んだ方が断然面白い。上でいったようにこの作品、雑だし悪文です。ですが、これがあの暴走老人の元都知事が書いたものだと思いながら、あの顔、あの言動を思い浮かべながら読むと、結構楽しめる。作品冒頭、お台場のビル最上階役員室フロアから下界を眺めながら

「東京も変わったもんだよな、ニューマンハッタンか。こうして見るとこの国もそれほど傾いているとは思えないがなあ」
 大村がいった。
「いや、もうそうでもないな」
 高見がいい、
「まあ気にするな、なんとかなるよ」(p.30)

このツカミで爆笑しました。作者とセットでよまなかったら、これほど腑抜けた発話はないですが。

それともう一つ面白かったのは、雑な書き方だけに一周回って逆に味わいぶかくなっている語尾の処理。学生時代の回想パートで、「○○だそうな」という昔話風の語尾処理を連発するわけですが、いまどき「○○だそうな」なんていういい方が、たかだか60年ほど昔を振り返るのに大仰ないい方で、語られる内容との組み合わせによっては思わず滑稽な効果を生んでいます。例えば、戦後食料のなかった時代、学生寮のなかではこんな出来事があったそうな。

その猫を仲間がまた摑まえて、今度は誰かが陸上競技部の部室から持ち出してきた砲丸投げの鉄の塊で頭を殴って殺し皮をはいで、その肉をすき焼きにして食ってしまったそうな。(p.34)

ここにはこの小説のなかで、一番爆笑しました。ただでさえ食べ物のすくない時代の学生寮で、食堂に忍びこんでは食べ物を盗み食いしていた猫が退治された場面です。まるで人を化かして悪さをするタヌキを村人たちが懲らしめて狸汁にしてしまったようなイメージそのままに、「すき焼きにして食ってしまったそうな」(笑)。この「○○そうな」が計算されてこのエピソードを紹介するときに配置されているのならたいしたものですが、ここ以外でもエピソードの種類にかかわらず「○○そうな」は乱発されるので、計算というよりはきっと語り手の、過去を語るときの口癖(筆癖)なんでしょう。しかし下手な鉄砲かずうちゃあたるで、この猫鍋エピソードの語り口は面白かった。萌写真集の猫鍋じゃなくてリアル猫鍋。
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