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小山田浩子「ディスカス忌」

出典:『新潮』2012年9月号
評価:★★★★☆

とにかく言葉をつらねる書き手と、できるだけ言葉をそぎ落とす書き手とがいるとすれば、小山田浩子は後者に属します。デビュー作の「工場」の、具体的な事物が描かれているはずなのに全体像がいっこうにみえてこない不条理さに、おもわずカフカを思いだした記憶があって、すでに新人とはおもえぬ完成度の作品をとにかくおもしろく読みました。この作品は、誰にでもありうる日常的風景の一コマを描いていると見せかけて、最後の最後で、それまでの読みがガラッとかわるような構成になっていて、やられたーと思いました。「言いすぎない」書き方によって、なんでもかんでも「言いつくす」よりも、かえって何倍も言っている結果になる、こういう書き方ができる若手作家は貴重。

話としては、友人の友人の家に出産祝いで訪れることになった「僕」が、友人の友人の妻をふくめた四人でやり取りをするだけのお話しです。やり取りの言葉やしぐさも、ごくごく日常風景。だけれども終盤、友人の友人の浦部君がすこし不穏な打ち明け話をして、その後この世をさってしまったときに「まさか!」となる仕掛けになっている。こういうのはなんていうのだろう、どんでん返しというのでもないし、叙述トリックというのともちがうし。終盤の一行とか一エピソードが、それまで描かれてきたなにげない日常風景と思われた描写を、がらっとかわった違う風景の描写として読ませてしまう。

細君は柔らかい素材のブラウスを着ていて、その下の乳房が重たく垂れ下がっているのが感じられた。赤ん坊と顔がよく似ていた。(p.108)

細君はうふふふと笑った。どう見ても二十歳そこそこにしか見えない。(p.108)

もしかしたら、今子供のように見えている細君は、本当は今風の若い女性であったのかもしれない。(p.111)

産後ひと月の奥さんをそんな風に使っていいものだろうか。僕は、今から、もし妻が妊娠し、出産したら、どれだけ自分が彼女を気づかい労わらねばならないかと考えおののいているのに。(p.112)

この、若奥さんについての描写の普通さよ(ほめ言葉)!語り手の年齢が、40そこそこという設定もやはり、「細君」という語彙や、若奥さんをうらやましがるさまを自然にみせるための、計算づくの設定だと全部読んでから気づいたわけで、とにかく上手いです。普通に見えることをきちっと計算して、しかも成功させてる。はやく次の作品が読みたい書き手の一人です。

ちなみに、同号には、言葉をつらねる系の書き手である木下古栗が「IT業界 心の闇」という作品で、こちらは叙述トリック(笑)を展開していたのも偶然とはおもいますが絶妙な構成でした。
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