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いとうせいこう「想像ラジオ」

出典:『文藝』2013年春号
評価:★★★★★

3・11以降、震災とそれにともなう原発事故に何らかの形でふれた小説が量産されてきました。新人賞応募作でも震災をあつかった作品がふえたのではないかと受賞作や落選作についての選評をみるかぎり推測できます。小説にかぎったことではないのでしょうが、何らかの形で──現地に足を運ぶものから、「私は震災に関心が湧かない」という表明までもふくめて──「震災」についてふれないといけない、とだれかが義務を課したわけでないにもかかわらず、なんとなくそんな空気になってるのを感じられます。そういう流れのなかで、いとうせいこうの小説「想像ラジオ」。

まず「耳を傾ける」こと、これが強いメッセージとして打ち出された作品です。

だけどだよ、心の奥でならどうか。てか行動と同時にひそかに心の底の方で、亡くなった人の悔しさや恐ろしさや心残りやらに耳を傾けようとしないならば、ウチらの行動はうすっぺらいもんになってしまうんじゃないか(p.46)

上は復興のボランティアに携わる人の発言として作中にでてきます。

「死者と共にこの国を作り直して行くしかないのに、まるで何もなかったように事態にフタをしていく僕らはなんなんだ。この国はどうなっちゃったんだ。」
「そうだね」
「木村宙太が言ってた東京大空襲の時も、ガメさんが話していた広島への原子爆弾投下の時も、長崎の時も、他の多くの災害の折も、僕らは死者と手を携えて前に進んできたんじゃないだろうか? しかし、いつからかこの国は死者を抱きしめていることが出来なくなった。それはなぜか?」
「なぜか?」
「声を聴かなくなったんだと思う」
「……」(pp.70‐1)

上は生者と死者とのあいだで交わされる対話です。「死んだ人は言葉を話せるわけないだろ!こんなの生き残った人が自分に都合のいいように捏造してる嘘っこのエゴだ!」という、僕もふくめて当然の反応をする人には作中で、これまた当然のようにそういう声にも応答があるので、じっさいに作品にあたってみてください。

なにをおいても想像力をはたらかせて声を聴き取る、聴こえてきた声に正直に耳を傾けて、声と共に歩んでゆく。この、想像力を働かせることでどこからか声が聞えてくるメディアとして、ラジオを選んだところも作者の慧眼です。メディアという言葉じたいに示されるように、ラジオを通じて死者と生者が媒介される。声なき声は、どこかから、必死で、ときに陽気に、ときに悶えながら、声をあげているに違いありません。

メッセージが前面に出てくる小説は押しつけがましさがどうしてもつきまとって、僕は好きになれないのですがこの小説は別でした。耳を傾けることを、理路を尽くして説得的にさそいかけてくる作品です。「想像ラジオ」を読み終わってすぐ、亡くなって10年ほどになる祖父の声が僕の耳に聞こえてきたとき、この作品は具体的な出来事である地震についての震災モノという枠を踏み越えて、より広い地平にでて普遍性を獲得したのだと僕には思えました。人類学的な洞察をもった鎮魂文学といえるでしょうか。そう考えれば、大惨事の現場に直行して即時につたえる報道の言葉に対して、文学の言葉は震災後数年たってやっと形になることで、「いまさら…」ではなく「いまこそ」の、文学の言葉独自の存在理由を獲得できるはずです。

あと、気になったところを二つだけ。

一つ目。これだけの達成をなしとげた作品ですので指摘するのは心苦しいですが、僕にとっても特別な曲なのでいうだけはいっておこう。「想像ラジオ」ではクラシック音楽からポップミュージックまでいろいろなナンバーがかかります、まさにラジオ。その中で、

『三月の水』って曲で、原題はwater of marchって言うて、『三月の雨』とか訳されてたりするんやけど(p.47)

ただしくは、Waters of March でwaterは複数形です。がんばれ校閲係。

二つ目。この作品の掲載媒体が文芸誌ということだからか、久々の小説だということだからか、ともするとブンガク的修辞がウザったく感じられることもありました。

なぜかというと、鳥のさえずりを耳にした瞬間から、僕の胸の奥に抑えようのない特別な気持ちが巣くってしまったからで、それは最初ハツカネズミに心臓の真ん中を咬みつかれ続けているような感覚だったんですけど、やがて凍み豆腐が冷水を吸ってふくらんでシトシトと低温の滴を垂らすみたいに感じられたその頃には僕は悲しみで胸が張り裂けるという言葉の意味がよくよくわかるようになり(p.80)

メッセージ性をもった力強い小説なので、余計な小細工はせずに直球勝負でよかったかなとも思います。無駄に凝った表現をすると、イメージを豊かに使えるどころか逆に流れが停滞したり、イメージが濁ったりしてしまい作品の力を損ねます。が、こういうところも瑕にならず、読んだ後に静かで、確かな手ごたえを残してくれる作品でした。本職の小説家の人たちはこれ以上の仕事をしないとですね。
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