スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

島田雅彦「透明人間の夢」

出典:『群像』2013年2月号
評価:★★★★☆

星座シリーズのうお座担当は島田雅彦。島田雅彦を僕は数年ぶりに読みまして、実にひさびさ。昨日読んだ丹下健太の面白くなさにがっかりしていたのですが、それに比べるとものすごくうまく感じます。ギャップのせいなのかどうかわかりませんが。

ストーリーは、若いカップルの男のほうが職を失って、女の方も仕事がなくホームレス寸前までいき、所持金1300円で入った寿司屋で偶然好運に巡り合うというもの。作中にも言及がありますが、志賀直哉『小僧の神様』もふまえながら、しかしあくまで現代の短編作品として成立しています。

 マナブがあんなに弾んだ声で話すのを久しぶりに聞いた。ほとんど奇跡的にいいことが起きたに違いない。レイコは昔、高校で読まされた志賀直哉の『小僧の神様』を思い出した。自分の小遣いでは寿司一つたべられない丁稚奉公の仙吉は、その様子をこっそり見ていた貴族院議員Aの配慮で、憧れの寿司を腹いっぱい食べることができた。自分が寿司を食べたいことを見透かして、ご馳走してくれたその人はきっと神様に違いないと小僧は思い込む、という話だった。貧しい人は奇跡を信じて生きていくしかない、と作者はいいたかったに違いない、と感想文に書いて、おばさん先生に、ずれてるわね、といわれたのを覚えている。(p.140)


『小僧の神様』が、「めでたしめでたし」とでもつけたしたくなるような「お話」ならば、こちらの「透明人間の夢」は終盤まで「お話」と読ませつつ、最後の最後でリアリズムに着地します。この、物語と現実とを峻別する境界線をこれだけの分量でクレバーにまとめて見せる手並みはさすがベテラン作家だなあと感心させられました。プロに向ってエラそうないい方なのは重々承知ですが(笑)。タイトルも皮肉がきいていて隙がない。読後は、立川志の輔師匠の新作落語とよくにたソツのなさだなあと思いました。短編のお手本にしていい作品で、分量からいえば島田雅彦の代表作とはいえないまでも、しかし読んでおきたい小品、短編集のアンソロジーをつくるならノミネートしたい秀作です。

(追記)この2月号の星座にちなんだ短編特集の最後には星占いもついてます(今、発見した)。どの星座の占いもそんなに悪いことは書いていなくて八方美人。なんだか週刊誌とか子供読み物みたいになっていく『群像』の方向性が僕には見えません(笑)。こういう企画もたまにはいいのかもしれませんが、せっかくいまやマイナーとなってしまった純文学の雑誌なのだから、なんだかもっとこう変わった毛色の企画、不穏なもの、物議をかもす作品・記事を読みたいなあと一抹の寂しさを感じながら追記してしまいました。ちなみに2013年2月号の僕にとってのベストは中村文則「アダルトビデオの名言」であることも付言しておきましょう。
スポンサーサイト

コメント

Secret

No title

本日、ラジオの朗読で拝聴しました。面白かったですが、島田さんにはもっと前衛的な小説を書いていただきたいところ。と申しますが、島田さんに限らず、最近の「純文学」はやたら人情噺めいたものが増え、不満なのです。伏線もきちんと張ってあり、どんでんがえしめいた展開もあって、大衆小説的なテイストでした。
プロフィール

読む人

Author:読む人
小説の感想を、自分基準で。コメントはご自由にどうぞ。

★☆☆☆☆(面白くない)
~★★★★★(面白い)で評価。

最近の記事
最近のコメント
月別アーカイブ
カテゴリー
ブログ内検索
リンク
カウンター
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。